2011年10月20日木曜日

長期被曝による白血病死亡リスクのメタ分析  (



  • Daniels and
  •  Schubauer-Berigan 2011) ここから全文へリンク



  • 白血病(慢性リンパ性:CLLを除く)による死亡と放射線被曝量との関係をメタ分析した論文。以下はその概略。

    71の先行研究を見いだした。それらのうち下記4条件を満たしている23の研究についてメタ分析した。

    • (1)白血病(慢性リンパ性:CLLを除く)による死亡と放射線被曝量との関係を分析してある。
    • (2)データ収集が、コホート=同じ人々を長期的に観察する)もしくは、バイアスのないケースコントロール(発病した人についての情報を収集する)研究である。
    • (3)個人レベルの線量が測定されている。
    • (4)線量D-反応の係数が報告されている(RR=1+ERR(D))。

    23の研究一覧(リンク)のAverage doseが各研究の調査対象者の平均被曝量(γ線の場合1mGy=1mSvと考えてよい)。大きいものもあるが、ほとんど100mSvよりも大幅に低い)。
    Casesが白血病での死亡(もしくは発生)数。
    Effect size (ERR at 100 mGy)が、上記の線量-死亡数の係数。通常は死亡数/Sv で表示するが、 (ERR at 100 mGy)とあるので、この値は症例数/Svを10=100/1000で割ったものかもしれない。
     
    表にみられるように、研究によって値が異なるので、メタ分析した。その結果、超過リスク係数は0.19となった(95%信頼区間は 0.07 ~0.32つまり少なくとも5%水準で有意)

    なお、異なる研究が、同じ対象を分析していることもあるが、そのような重複も調整。さらに、公刊バイアス(効果が検出された論文の方が公刊されやすい)なども考慮しても有意であった。
    ちなみに日本の原爆被爆者データからの推定値は0.15であり、類似した値である。 (放影研 によるリスク推定値)


    参考)メタ分析
    上記にリンクした表のように、おなじような分析をしても、研究によって結果が異なることがある。それぞれ別に解釈するのではなく、それらの研究を総合して、結果をまとめるための方法。

    二つの研究の係数が下記の通りであったとする。

    研究1 係数 0.01  サンプル数 1000
    研究2 係数 0.1   サンプル数 500

    最も簡単なのは下記のようにサンプル数を重みとして係数を加重平均する方法。
    総合化した係数=(0.01*1000+0.1*500)/(1000+500)

    推定値の標準誤差(信頼区間)の情報がわかっている場合は、その逆数を用いる。

    この論文では、数式にあるように研究内での分散と研究間の分散の2乗和の逆数を用いている。

    さらに、各研究の係数を被説明変数として、研究の特徴をコーディング(この例だと原発労働者か、軍事核設備労働者か 加法モデルか乗法モデルか等)して説明変数、サンプル数もしくは推定値の分散の逆数を重みとした回帰分析を行うこともある。

    2011年9月27日火曜日

    原発は(技術的には)80年代には終わっていた!

    これはこちらの原稿の一部。

    日本の原子力は、GE、ウエスティングハウスなどと提携し、技術を導入してきた。これに伴って原子炉の国産化率は高くなってきた[1]。それでは特許についてはどうだろうか。特許のキーワードとして「原子力」もしくは「原子炉」を含む特許の出願件数を検索した。参考のために、「太陽電池」についても同様に検索した。
     1970年から2009年までに、原子力は28,960件、太陽電池は28,685件が出願された。実際に特許として登録されたのは原子力8,257(登録率28.5%)、太陽電池5,257(18.2%)であり、原子力の方が登録率は高い。
     ただし、時系列での出願パターンは大きく異なる。ともに1970年の出願数はゼロであったが、原子力は1980年代の前半をピークとし、その後は一貫して減少してきた。一方、太陽電池は一貫して増加し、ここ数年ではさらに急速に件数が伸びている。原子力については、鉱工業の研究支出もプロットした。年度による変動があるものの、1980年代にピークがあることは共通している。
     日本の原子力発電所を海外に輸出したり、技術を維持することの重要性を指摘する声もあるが、イノベーションの発生という点からみると原子力発電所は1980年代前半に峠を超えていたのである。
















    図1 原子力、太陽電池の特許出願件数、原子力への研究支出の推移
    )ウルトラパテント・データベース(https://www.ultra-patent.jp/)を用い、原子力については (原子力 | 原子炉)、太陽電池については(太陽電池)で、それぞれ出願年を指定して検索。
     研究支出は日本原子力産業協会 (2005),p.47 集計表6 鉱工業の費目別原子力関係支出高の推移


     原子力産業協会 (2007)の継続調査によると、民間企業における原子力関係研究者も一貫して減少している。


    出所) 原子力産業協会 (2007), "2005年度 第47回原子力産業実態調査報告."
    図2 民間企業における原発関連従業員数




    [1] 例えば1967年に着工した福島第一1号機のプラント国産化率は56%であったが、1992年着工の柏崎刈羽原子力発電所は89%である。
     東京電力「福島第一原子力発電所 設備の概要
     http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/intro/outline/outline-j.html
     東京電力「柏崎刈羽原子力発電所 設備の概要
     http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/intro/outline/outline-j.html

    2011年8月1日月曜日

    原発におけるトラブルの記録



    0)データについて
     JNES 事象別トラブル情報 よりHTMLで表示させた情報をスクレーピング。
      2011年3月末ごろ現在で、1170件登録されていた。311福島については含まれていない。
      注意) このデータは経産省所轄で、かつ事業者からの報告があったもののみ。

      JCOにおける臨界事故1999.9.30発生  評価尺度4 や もんじゅのナトリウム漏れはいずれも旧科学技術庁の所管であり登録されていない。
     その後、2011年5月20日に報道された浜岡原発5号での復水器における配管破損も報告されていない(2011年5月27日現在)ので、トラブルのすべてが報告されているわけではないことに注意。
     また、重大なものではなく軽微なものも含まれている。具体的には上記のリンクからご自分で内容をご覧頂きたい。

     文科省管轄の研究炉 などにおけるトラブルは   事故・故障情報データベース「IINET」 に別途まとめられている。


    1)評価尺度の分布
        INES 評価尺度については 原子力防災基礎用語集:国際原子力事象評価尺度(INES)を参照

      福島原発は 尺度 7


    INES基準適用以降についてみると、安全性に影響しないと判断されたものがほとんどである。
     0-  249
     0+ 44
     1   29
     2   1(適用前だが遡って評価)
     7  1(福島原発)
      評価対象外   57


    2)施設別 件数上位のもの
     東海                                             101件   →廃炉ずみ
     敦賀1号機                                        81  
     大飯1号機                                        59
     東海第二                                          56
     福島第一1号機                                    54
     福島第一2号機                                    51
     大飯2号機                                        50
     高浜1号機                                        46
     高浜2号機                                        41
     美浜3号機                                        38
     美浜2号機                                        37
     浜岡1号機                                        36
     美浜1号機                                        32

    ・時系列でのトラブル発生状況 (経産省 所管の原子力発電所)


    出所)JNES 事象別トラブル情報 より作成。
    注)
    ・データの収録範囲は経産省所轄の商業炉が中心であることに注意。また、事業者が報告したものに限定されている。
    ・施設別に下から初トラブルが早い順にプロット。もっとも下にあるのは「東海」
    ・黒:INESトラブル基準分類 1   
    赤: 2もしくは3  
    グレイ:評価対象ではない、もしくは1未満

    ・号機まで明示されているのは各号機におけるトラブル。号機が示されていないものは下記のように記されており各号機に振り分けることができないもの。
     柏崎刈羽:7月16日に発生した新潟県中越沖地震後のパトロールにより、1から7号機の原子炉建屋オペレーティングフロア(管理区域)の全域にわたり、使用済燃料プールの水が溢水。
     泊:アスファルト固化装置の定期点検中、復水タンク内の清掃をしていた際、火災が発生し、従事者4名が負傷した。
    福島第二」雑固体廃棄物処理設備の焼却炉空気予熱器下部でボヤが発生
    これ以外の数件については、各号機に振り分けた。

    ・東海、浜岡1、2号機などは廃炉された。


    3)参考

    ・同氏は ニューシア 原子力施設情報公開ライブラリー も利用されたとのこと。

    原発従業者疫学調査について


    放射線影響協会による下記調査への疑問
     平成22年3月 原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査 

    ・これについての疑問点など。
     お断り。筆者は疫学についての専門家ではないので、この分野固有の分析手法、現象についてわからない部分も多い。しかし、統計モデルの定式化、提示すべき情報などについては学問分野によらず共通であるはずである。そこからわかる範囲でコメントする。
     この報告書では原発従業員と一般の人との比較「外部比較」と原発従業員内での被曝線量などについての「内部比較」が行われている。前者については一般の人と比較するには情報が不足していると考えられるので、後者についてのみ考察する。

    ・p.5の結論
     「内部比較では、累積線量の増加にともなう慢性リンパ性白血病を除く白血病の死亡率に有意の増加傾向は認められなかった。また白血病を除く全悪性新生物および喫煙関連の悪性新生物の死亡率に、累積線量の増加にともなう有意の増加傾向が認められた。しかし、これらの悪性新生物から肺の悪性新生物を除いた場合には、有意の増加傾向は認められなかった。非喫煙関連の悪性新生物の死亡率に、累積線量にともなう有意の増加傾向は認められなかった。これらの事実を勘案すると、今回認められた白血病を除く全悪性新生物の死亡率と累積線量との有意な関連は、生活習慣等の交絡による影響の可能性を否定できない。」

     日本語がわかりにくいので統計がわかる人は数表を見た方が早い。


    表1 死因別解析結果一覧
    ・確認
    この調査の対象の原発従事者の一人当たりの平均累積線量は13.3mSv(報告書p.32合計列によれば10年以上勤務はこのうち28.2%)。それでも、部位によっては統計的に有意に発症率を引き上げる可能性ありということ。

     (喫煙などとの交絡や多重検定の問題はあるが)、子供の保護を考えると、20mSVに引き上げるべきではない。

     xx mSV以下ならば安全という主張もみられるが、そもそもここでの分析は、そのような閾値モデルではなく、線型モデルを想定している(はずな)ので、死亡率-線量グラフの傾きが正である限り、1mSv被爆するとその分、死亡率は増加する(症状もある)。

     この傾きのパラメータが提示されていないので絶対値については評価できないが、SMRという値をみるとp<0.05の症状で、20mSV以下でも1を越えるものもある。慎重には慎重を期すべきである。

     そもそも、この傾きのパラメータが示されていないことがこの報告書の大きな問題である。唯一示されているのは、白血病(慢性リンパ性白血病を除く)についてのみ(p.38)。 -3.01/Sv とマイナスと直感に反する結果だが、90%信頼区間(-6.52;0.49)に0が含まれているので、有意ではないということのみ。
    概要をみるといかにも直線をあてはめて傾きのパラメータを推定したようにみえるが、傾きのパラメータを推定して公開したのは、この白血病のみ。

    同協会に確認したところ、ポアソン回帰によって傾きのパラメータ(過剰相対リスク)を推定したのは白血病のみ。上記の検定結果は、クロス集計表を用いたトレンド検定の結果であるという(報告書をよく読むと確かに書いてあった)。


    ・この報告書の印象
    低線量でも死亡率が増加するという結果が得られているようにみえるが、そうではないことにしようとしているようにもみえる。

    ・疑問点、改善方向
    ここに細かくコメントしたが、内部比較についての疑問、改善点は以下の通り。

    1)分析方法
     λ=λ0(1+d*被曝量)というモデルは「3.6 慢性リンパ性白血病を除く白血病(p。36)」にのみ適用したとの回答を得た。
    他の疾病についてはライフスタイル因子との交絡が疑われるため推定しなかったとのこと。しかし、しかし、他の研究(例えばこちら)では交絡効果をいれないモデルの推定結果も公開している。推定して、その結果(傾きのパラメータ)を提示すべきである。
     そもそも上掲表にあるように症例数の少ない白血病で線型モデルをあてはめて、それよりも明らかに症例数が多くより信頼性の高いパラメータが推定できそうな症例に対して線形パラメータをあてはめないという論理がわからない。
     クロス表のトレンド検定なので、セルの数は地域×年齢層×...と多くなり、度数0のものが多くなるはず。そもそもχ2検定が成立しているのかも確認すべき。


    2)線量のカテゴライズ
     個人別に線量は細かく測定、管理されているにも関わらず、10mSv以下、20mSv、、、のように5つに粗くカテゴライズしている。しかも、全サンプル27万人中、20万人が10mSv以下に割り当てられているという不適切なカテゴリ化。広島、長崎の被爆者データでも最小カテゴリは0-5mSvが設定されている。この研究の目的は低線量での被曝の効果をあきらかにすることであるので、カテゴライズするのではなく、そのままの値を用いて個人別に推定すべきである。

    白血病の線型モデルを推定する際も、このようにカテゴライズしたものを用いているよう。線量は5段階に区分せずにそのままの値を用いるべきである。

    3)交絡効果を入れたモデル
     交絡効果を測定したのは4万+4万(重複1万を差し引くと)7万人であるという。死亡数が少ないので交絡を入れたモデルは推定していないとの回答を得たが、上記の白血病の死亡数は170程度。
    第一次交絡調査後、疾病によって異なるが死亡数が170よりも大きい疾病は多くある。それらを用いて、交絡効果を入れたモデルは推定できるはずである(相関が高くなって推定不能となる可能性はむろんあるが)。

    →その後、交絡調査2の報告書から、喫煙量と被曝量の関係のクロス集計の連関係数を算出。
    0.016と低い値。下のように線量が多いほど喫煙量が大きくなるという明確な関係はみえない。交絡効果のせいにするべきではない。


    線量 mSv
    喫煙量 く10 10 20 50 100+ 合計 (サンプル数)
    <10 3% 3% 3% 2% 2% 3% 616
    -19 21% 23% 22% 21% 20% 22% 4547
    -29 46% 47% 46% 48% 48% 47% 9843
    -39 18% 18% 19% 20% 20% 19% 3910
    -49 8% 7% 7% 7% 8% 8% 1678
    -59 1% 1% 1% 1% 1% 1% 226
    60+ 1% 1% 1% 0% 1% 1% 161
    不明 1% 0% 1% 1% 1% 1% 136
    合計 100% 100% 100% 100% 100% 100% 21117

    出所)第Ⅲ期調査結果報告書(第2次交絡因子調査編:PDF) より作成。

    4)個人レベルのモデルによる推定
     原爆生存者データと同様、線型モデルの推定にはポアソン回帰モデルを利用。ポアソンモデルは、平均と分散が同じという極めて強い仮定をしている。しかし、原爆生存者データのコホートを確認したところ、あきらかに0の割合が高く、ポアソン回帰モデルを用いるのは不適切である。負の二項分布モデル、もしくはzero inflatedモデルなどを適用すべき。

     ただし、個人別に線量、生存か否か、死亡の場合はその原因が、得られているはずである。疫学の常のようだが、線量、地域、などによって層化(集計)して分析している。 これによって、個人別に測定されている線量などの情報が失われている。個人レベルでの二項ロジットモデル、亡くなられた日付についての情報も用いたハザードモデルなども適用可能であろう。
     さらに、多重検定の補正をしてあるが、どの疾病でなくなられたのかをモデル化するmulti-stage modelなど、多重検定を避けることは可能である。下に述べるように、そもそも従業員のリスクを重視するという立場からは多重比較の補正は必要ない。
    →被爆者データを用いた部位別推定がされているが、その際には多重比較の補正はしていない。

    5)データの公開
     できれば、放射線影響研究所が広島、長崎の被爆データを公開されているように、このデータもプライバシーに配慮した上で公開すべきである。

    6)多重比較
     16部位について検定したので、検定力を保つためにBonferroniの方法で調整したとのこと。これは例えば個別検定したp値を16倍してしまう方法(通常は有意と判断する有意水準5%を5%/16とする方が多いような気がするが、報告書を読むと、p値の方を16倍したものだと思われる)→報告書に記載のp値はこのような調整はしていない、そのままの値とのこと(下記参照)。

     クロス集計のトレンド検定のp値を16倍するのだから、影響がない(トレンドがない)という仮説が棄却されにくくくなってしまう。従業員、国民からみると、リスクはなるべく低い方がよいので、多重比較は不要だと考えられる。
     例えば柳川堯 (2002), 環境と健康データリスク評価のデータサイエンス (データサイエンス・シリーズ): 共立出版.   を参照のこと。
     
     上掲のp値が16倍したものであるならば、それを1/16すれば、補正前のp値になる。すると、16部位中14部位が5%水準で有意となる。
    →これらについて再度問い合わたところ、p値はそのような補正をしていないとのこと。多重比較の補正をしていない値なので、これを通常のように使えばよい。

    2012/2/4 追記
     その後同協会に、データを再分析すべきではないか、しないならば、こちらでさせてもらえないか、少なくともトレンド検定に用いたクロス表ぐらい公開しないかと要望したが断られる。
     米国では DOEが従業員調査個票を公開している(CEDR ブラウザ:Safariには非対応。IEもしくはFFで)。ユーザー登録が必要で、私が登録してもらえるかは不明だが、日本でもデータの公開が望まれる。
     ドイツ WISMUT社のウラン鉱山労働者データ が研究計画が認められれば利用可能。 

    電力需給2009-11について  (2011/7/14現在のデータに基づく)


    1.データ
    下記の二つのデータを用いて、東京電力の需給状況をみてみる。
    (1)TEPCO : でんき予報|過去の電力使用実績データ   
    2008年以降の365日×24時間毎の需給実績
     1976年以降の各地の365日×24時間毎 の気象データ
    (2)については東京を指定。24時間毎のデータも入手可能だが、指定するのが面倒なので、1日毎のデータを用いる。
    ダウンロードするのが面倒なので、(1)(2)とも2009/7/1-2011/7/12の期間を分析対象とする。

    2.概況
    上記期間での各年の最大需要電力量(ピーク電力需要量 万kW)は下記の通り。2011年は震災、原発によって夏ではなく、2/14がピークとなっている。
     2009/7/30 Thu 14:00       5450
     2010/7/23 Fri   14:00       5999
     2011/2/14 Mon 17:00       5150  参考)2011/7/11 Mon 14:00       4594

    ・需要量の多い時間帯
    右の図をみるとわかるように、夏期では10-18時ごろにピークがある。
    2011/2/14という冬期においては、真昼ではなく、8時、18時ごろにピークがある。
    2010年7月と比べて2011年7月はピーク部分が1500万kw程度減少。朝晩も300万kw程度減少している。
    図 各年のピーク電力量を記録した日の時刻別電力需要量

    ・気温と電力需要
    各日について、最高気温と最高需要電力量をプロット。年によって色分けした。各年とも20度を境にしたV字カーブ。夏は冷房、冬は暖房用に電力が消費されていることが推察できる。
    →暖房に電気を用いるのは無駄
    原発では発生した熱の4割程度しか電気に変換できない。つまり、6割の熱は捨てている。送電によるロスもある。火力発電所でも65%程度の効率。熱と電気の供給を組み合わせたコジェネなどを推進すべき。

    赤は2011年。温度の低い部分では2009-10年とほぼかわらないが、それよりも高い部分、つまり3月以降は、やはり需要量は減少している。
    図 最高気温と最高需給電力量

    3.夏期の電力需要量の推定
    上記のように夏と冬では電力の消費パターンが異なるので、2009,10,11年の5月から10月のデータを用いて、各日の最大需要電力を説明するモデルを推定する。
    前述のように電力量は1時間毎の値が得られているが、気象データについては1日の平均、最高などしか入手していない。このため、各日の最大電力を従属変数とする。現在、供給量が十分かが問題なので、ピーク電力量の規定要因を分析することには重要な意味がある。

    ・各種の要因が作用すると考えられるが、入手もしくは予想値を設定しやすい変数を用いることとする。
    気象データ  最高気温、湿度、風速、降雨量
    暦データ   年、月、曜日 2011/3/11後 ダミー変数
    ・結果
    モデルのあてはまりは、修正R2=0.876と単純なモデルにしては良好。残差の大きいものでは564万kwがあったが、これは気温が低いため暖房が増加した10月の日付。ここでは、夏を考えているので、これは無視。モデルや変数の定義を行えば、通年データでも推定できるはずだが、とりあえずこの結果で。

    下が推定結果。統計的に0でない係数には*がついている。
    最高気温が1度上がると電力需要量は90.75万kW増加する。
    湿度が1%上昇すると9.60万kW増加。風や降雨量は関係ない。
    3/11の震災以降平均して電力需要は228万kW減少している。
    5月を基準とすると、7-9月は需要量が増加。特に8月は314万kW増加。
    日曜を基準にすると、平日は需要量が増加。特に火曜は492万kW増加。
    時間帯では14時が+236。


    表 最大需要電力量についての回帰分析の結果

    推定値スイテイチt値アタイ有意水準ユウイスイジュン
    切片セッペン466.692.24**
    気象キショウ最高気温サイコウキオン90.7514.76***
    湿度シツド9.604.71***
    最大風速サイダイフウソク-13.91-1.27
    降雨量コウウリョウ-0.93-0.70
    暦コヨミ3/11以後イゴダミー-228.42-4.15***
    2010年ネンダミー311.447.45***
    6月ガツ-93.48-1.57
    7月ガツ223.192.89***
    8月ガツ314.153.74***
    9月ガツ156.412.06**
    月曜ゲツヨウ437.646.38***
    火曜カヨウ492.887.01***
    水曜スイヨウ470.756.68***
    木曜モクヨウ484.876.86***
    金曜キンヨウ450.636.21***
    土曜ドヨウ53.590.88
    10時ジ89.740.54
    11時ジ181.852.64***
    12時ジ-367.03-1.34
    13時ジ59.360.62
    14時ジ236.873.78***
    16時ジ120.141.48
    17時ジ47.830.35
    18時ジ76.601.18

    注)2009,10,11年の5月から9月の日次データ。N= 293。
    Multiple R-squared: 0.885, Adjusted R-squared: 0.876 
    エクセルからペーストしたらふりがなもつけられてしまった。

    ・グラフにしてみたのが下の図。
    推定に用いた5-9月の部分のみ示されている。
    黒、赤はそれぞれ電力需要量の実績値と内挿値。青は最高気温×150。
    気温と電力需要量は相似形であること、実測値と内挿値はよく似ていることがわかる。
    図 電力需要量の実績値、内挿値、最高気温

    ・このモデルからの最大需要量の予測
    このデータでの最高気温37.2度。最高湿度 88%。需要が最も大きくなる8月の火曜14時を想定して、上の推定式を用いると5494万kW。
    95%信頼区間は[5414,5574]
    東電の設備については こちらにまとめた。
    最近の報道では 東電、7月末供給力を5680万キロワットに上方修正 | Reuters  記事によると8月末でも5560万kWとのことなので、このままの節電、経済水準を維持し、とてつもない高気温にならない限り不足することはないだろう。
    東電で現在稼働中の原発は柏崎刈羽原子力発電所/の1,5,6,7号(計500万kW)。ちょっと頑張ればすぐに止めてもok。今後、定期点検で停止しても問題はないだろう。

    4.結論
    ピーク時は夏場の1日あたり数時間×数日。それにあわせて原子力発電を増強するのではなく、ピークカットのための太陽光発電などと併用すると効果的だろう。
    現在のような遠隔地に巨大発電所を設置、電気を遠距離送電。熱は捨てるという方式は無駄が多い。コジェネなどで熱と電気の供給を行い資源を有効活用。
    節電などのおかげで、東電関内では電力が不足することはないだろう。

    5. 課題など
    ・モデルのあてはまりの改善。
    時系列構造の導入(暑い日が連続すると、、、、)など。
    ・時刻ごとの推定。
    ・東京以外の気象データの利用。
    ・部門別の推定(データがあれば。本当に産業の空洞化が懸念されるのか?)

    6.追記
    節電による産業への影響が喧伝されるが、7/29に発表された経産省の商業販売額は前年同月比+2.9%、鉱工業指数(生産)は -1.6%程度。産業別に細かく見ると自動車などは落ち込みがあるが、全体で見るとさほどではないようである。(節電による産業空洞化?)
    7.追記2
     訂正)この夏の最大電力は8/18(木)14-15時の4922万kW   私の予測は5494万kW。 予測よりも10%以上節電したということ。冬はそもそも夏より1500万kW低いので余裕でok。

    2011年7月30日土曜日

    節電による産業空洞化?

    電力需要は東電のみでも1500万kw減(ピーク電力)。 


    図 各年のピーク電力量を記録した日の時刻別電力需要量


    出所)電力需給2009-11について。 

    商業販売統計速報 平成23年6月分  震災の3月は百貨店が大きく落ち込むもその後は急速に回復。

    概況

    出所) 商業販売統計速報 平成23年6月分 



    鉱工業指数  2011年6月分速報  前年同月比 生産 -1.6% 出荷-1.5%と微減。一方で、在庫は4.0%増。節電による生産への影響は全体で見るとほとんどない。

    平成17年=100
    項目季節調整済指数原指数
    指数前月比
    (%)
    指数前年同月比
    (%)
    生産92.73.996.6▲ 1.6
    出荷94.68.598.1▲ 1.5
    在庫100.8▲ 2.8100.24.0
    在庫率111.9 ▲ 7.3109.54.7
    出所)鉱工業指数  2011年6月分速報

    2011年7月8日金曜日

    ストレステストの改善について

    ある方に対して下記のようなメール&安全委員の意見箱にも送付しておいた。
    bounceされていないので、届いたのだろうが、返事はどうかな。

    さて、下記のようなEUのストレステストのような指示を出されています。
    東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価に関する報告について(2011.07.06)
    http://www.nsc.go.jp/info/20110706.pdf

    運転状況としてはもっとも厳しい状態
    とありますが、これを具体的に規定すべきではないでしょうか。
    地震の場合
    現在の設計震度のN倍
    柏崎で観測された2000gal
    など。

    さらに、EUのストレステストでは、
    http://bit.ly/p3tApH
    発電所周囲の被害を想定するように指示しています。今回、送電塔がたやすく倒れたことからみても、これは検討させるべき課題だと考えます。

    さらに、レビューの方法についてはまったく記載がありませんが、EUでは、被評価原発の所在国はレビューチームに入れません。お手盛りの評価であるという印象をもたれることを避けるためにも、少なくともIAEAチームからの評価を受ける、などと明示すべきかと考えます。

    2011年3月18日金曜日

    福島原発について

    ・確認しなければならないこと
    冷却水が失われた原因
    圧力容器、制御室、配管のいずれかに損傷があったのか?
    単に燃料の加熱によるものなのか?

    ・電力需要の集中の解消
    時間的集中への対策
    通勤のフレックス化、テレワーク化を進め時間的なピークを分散する。
    サマータイムの導入
    夏期のイベントの中止もしくは秋への移行
    例 夏の甲子園は秋にする。

    地理的集中の解消
    首都圏一極集中の解消に向けて首都機能の移転、分散を。
    経済産業省は福島
    運輸は仙台
    など に移転
    跡地の売却による収入、地域振興、リスク分散なども図れる。

    ・今回判明したこと
    官公庁、東京電力、マスコミの人的劣化
    説明の不手際、その前提としての知識や情報の不足、モラルのなさ などどうしようもない。
    民衆もパニクってしまう。