2013年11月29日金曜日

2013/3/24 13:30 県民健康管理調査「甲状腺検査」説明会 in 会津での説明についてのコメント

 鈴木教授のメールアドレスが見当たらないので、同氏の所属される 器官制御外科学講座 http://fmusurg.com/contact.php からメール(2013/3/25) 
 2013/11/29現在、返答はいただいていない。ただし、(平成25年11月27日開催)「県民健康管理調査」検討委員会 第1回「甲状腺検査評価部会」
 をみると、年齢についての記述は消えたようである。もちろん、私のメールを読んで対応されたわけではないと思うが。
 ただし、閾値っぽい記述、Cardis et al.(2005)(無料pdf)のケース=コントロール分析で集めたサンプルにおける線量分布をチェルノブイリ全員の分布ととられかねないような表示をしていること、さらにこの論文では線形モデルが最良であることが(あいまいだが)記述されていること、被曝者について全固形ガンを対象に行った結果が混同されていることなどを再度指摘する予定。

 この他、私の行った甲状腺の分析結果 その1 その2 をお知らせしたり、研究者へのデータ公開、甲状腺ガンが判明した方とそうでない方のケース=コントロール研究の提案メールを同氏もしくは
放射線医学県民健康管理センター に送付したが、いずれも回答はいただいていない。


----------------以下が2013/3に送付したもの(Web公開用に文意を変えない程度でリンクの表示を変更した)。

 慶應義塾大学商学部でマーケティング・リサーチ(統計学の応用のようなこと)を教えています。その関係で被爆者データの再分析などを行っており、関連文献もサーベイしています。
 昨日の甲状腺調査説明会で 放射線の影響について、「20才以上であれば、100mSv以上であればがんが生じる。」と説明されました。

 動画
  00:59:49ごろ 以降。


出所) http://www.ustream.tv/recorded/30307437 の上記時間のキャプチャ。

 これについては、ICRPや被爆者の実証結果からも支持されていない閾値モデルを想定しておられるように聞こえます。実際、投影されている画像でも100-200mSvでと記されていますので、それ以下では発生しないという閾値モデルを想定されているようです。
 一方で、100mSv以上であれば「必ず」生じるともとられかねません。資料および説明の変更についてご一考いただきたくメール致します。

以下、ご参考。

 例えば被爆者の調査
 固形ガン全体については 閾値無しの線形モデルが支持されています。
論文 

  同様に、甲状腺ガン発症についても、 線形モデルが支持されています。
概要 
論文 
  →これのFig1

さらに、この論文にあるように成人への影響を示唆する結果も集積されつつあるようです。
 以上よろしくお願いします。


2013年11月17日日曜日

帰還に向けた安全、安心委員会配付資料の問題点


 メールアドレスがわかった、数名の委員の方々、および規制委員会には個別に若干文面をかえて送信した(11/17)。
 typoなどはその後、適宜修正した。
 Koya et al.(2012)について誤った解説を修正(5/15)。(p=0.11は10%水準では有意ではないが、このサンプル数、分析では注目すべき結果だと考えるので、そのように解説。→LNTを前提にすれば、線量区間を区分して検定せず、線形モデルで検定すれば10%水準で有意になる可能性があるとも考える。)

第3回資料(第1回の再配布) 線量水準に関連した考え方 
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/kikan_kentou/data/0003_05.pdf

この資料は全体的に出所が古くかつ、引用の一貫性がありません。
例えばUNSCEAR2000を数カ所引用していますが、UNSCEARは、その後下記のURLに あるように
http://www.unscear.org/unscear/en/publications.html

UNSCEAR 2006 Report: "Effects of ionizing radiation”
UNSCEAR 2008 Report: "Sources and effects of ionizing radiation".
UNSCEAR 2010 Report: "Summary of low-dose radiation effects on health".

さらに最近は子供に注目した
UNSCEAR 2013 Report: "Sources, effects and risks of ionizing radiation”.
Annex B - Effects of radiation exposure of children
をまとめています。

 これらの中で、UNSCEAR 2010はlow-doseに注目したものなので、引用するなら ばこれを重視すべきです。以下、「考え方」の

1.放射線による健康影響についての科学的知見(100mSv)について

 に記載されている項目の問題点を指摘します。丸数字、出所は同資料からの引 用。→が私の追加情報です。

① 放射線の健康影響に関する科学的知見を国連に報告する機関である「原子放 射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の報告書や放射線防護に関 する基準の策定に当たって国際的に広く採用されている「国際
放射線防護委員会(ICRP)」勧告等によれば、以下の点が明らかにされている。


→科学的知見なので、UNSCEARを引用すべきだが、ICRPも参照。さらに前者につい ては以下にあるように、2000をいまさら引用。周知の通りLow dose に絞った 2010reportが出たばかり。最新の知見を援用するのが常識です。


② 100mSv 以下の被ばくでは、あるしきい値を超えて被ばくした際に発生する 健康影響(「確定的影響」という。具体的には、皮膚障害や不妊などの「組織 反応」を指す。)は確認されていない(注1)。
(注1)ICRP Pub.103 (60) 「約100mGy までの吸収線量域では、どのような組 織も臨床的に意味のある機能障害を示すとは判断されない。」(Sv 単位につ いては、局所毎の被ばくにおいて、Sv≧Gy であるため、総和を取って、約 100mSv≧約100mGy の関係が成り立つ。以下同じ。)」


→科学的知見なのでUNSCEARを参照すべき。

③ 被ばく線量の増加に伴って発症率が増加する健康影響(「確率的影響」とい う。具体的には、がんや白血病等を指す。)については、しきい値がないと仮 定しても、100mSv までの被ばく線量でのがんのリスクは疫学的方法では直接 明らかにすることは困難というのが国際的な合意であり(注2、3)、100mSv 以下の被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小 さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しいと されている。
(注2)UNSCEAR 2000 Annex G.510「約100mGy をはるかに下回る急性線量にお いて影響の明白な兆候を示すことには統計的な限界が付きまとっている。」
(注3) ICRP Pub.103 (A86)「がんリスクの推定に用いる疫学的方法は、およ そ100mSv までの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たない という一般的な合意がある。」


→UNSCEAR2010では

 (Paragraph 25) Statistically significant elevations in risk are observed at doses of 100 to 200 mGy and above. Epidemiological studies alone are unlikely to be able to identify significant elevations in risk much below these levels.

 とあり、100mSv以下では認められないという記述はありません。
また、”Epidemiological studies ***alone*** are unlikely to"とあるよう に、疫学だけでなく、DNAレベル、動物実験などの結果も併用することが記載され ているが、そのことがまったく無視されています。
 さらに、後段の「100mSv 以下の被ばくでは、他の要因による発がんの影響に よって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加 を証明することは難しいとされている。」部分の出所がありません。

 なお、上記のUNSCEARの記述は被曝者の死亡の分析13報に基づくものですが、私の
LSS(Life Span Study) 13報 被爆者データのRによる分析 
http://nonuke2011.blogspot.jp/2012/05/lsslife-span-study-13-preston-dl-y.html
 にあるように、データを低線量区間に限定して、サンプル数を低下させる分析自体が不適切です。私の再分析にあるように、全データを用いて閾値の存在を仮定するモデル、仮定しないモデルなどを推定して情報量基準でモデル選択するという標準的な手法を使えば、線形モデルがもっともあてはまりが良好であることがわかります。


④ 以上の100mSv 以下の被ばくに関する健康影響の評価は、短時間での被ばく による影響の評価であるが、長期間にわたる被ばくの場合は、積算線量が同じ 100mSv の被ばくであっても、短期間での被ばくに比して、より健康影響が小 さいと推定されている(注4)。
(注4) UNSCEAR 2000 Annex G.512「腫瘍発生の有意な増加をもたらす最低線量 は一般には遷延被ばくによる方が急性被ばくよりも高い」


→UNSCEAR2010 paragraph 26) Overall. the cancer risk estimates from these studies do not differ significantly from those obtained from the studies of the atomic-bombing survivors in Japan.
とあるように発ガンリスクについては、原爆被曝者のような短期的(高線量率)、 Mayak,Techa,Chernobylなど長期的被曝(低線量率)とも変わらないことが明示 されている。
 ただし、この文章のあとには、
 By contrast. studies on human populations living in areas with elevated natural background radiation in China and India do not indicate that radiation at such levels increases the risk of cancer.
 高線量地域では発ガンリスクが観測されていないとある。しかし、これらに関する原論文(下に例として3つをリスト)によると、DNAレベルでは変異chromosome aberration が生じていることが示されている。またKoya et al.(2011)では発達障害についてp=0.113が見いだされています。

Wang et al. (1990), "Thyroid Nodularity and Chromosome Aberrations among Women in Areas of High Background Radiation in China," Journal of the National Cancer Institute, 82 (6), 478-85.

Kumar et al. (2012), "Evaluation of Spontaneous DNA Damage in Lymphocytes of Healthy Adult Individuals from High-Level Natural Radiation Areas of Kerala in India," Radiation Research, 177 (5), 643-50.

Koya et al.(2011), "Effect of Low and Chronic Radiation Exposure: A Case-Control Study of Mental Retardation and Cleft Lip/Palate in the Monazite-Bearing Coastal Areas of Southern Kerala," Radiation Research, 177 (1), 109-16.


⑤ 子どもや胎児への影響についても、100mSv 以下の被ばくでは、年齢層の違 いによる発がんリスク等の差は確認されていない(注5)。
(注5)D. L. Preston, et al. Solid Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors:1958–1998; RADIATION RESEARCH (2007)

→ここだけなぜか単発の論文。この論文は被曝者のガンの発症についての分析。 この論文ではAll solid cancersについて線形モデルのあてはまりが最良とさ れ、TABLE 10にあるように、ERR(excessive relative risk)の被曝時年齢Age at exposure (percentage change per decade increase)のパラメータは -17%  (CI=-25%; -7%)。つまり,被曝時年齢が10才高いと発ガンリスクが17%低下する。逆に言えば10才若いと17%増加することが示されている。論文の誤読と考え られる。
 さらに、UNSCEAR2010では、(25) Risk estimates vary with age. with younger people generally being more sensitive; studies of in utero radiation exposures show That the foetus is particularly sensitive, with elevated risk being detected at doses of 10 mGy and above.
 とあるように子供、特に胎児については10mGyでもリスクが高まることが明示 されている。

 さらに UNSCEAR2013 では部位別のリスクを比較し、breast, brain, thyroidガンなどでは大人よりも子供の方がリスクが高いことを示している (Table13)。なお0.5Gy以下では観測されないが、それ以上の被爆であれば、 determinisiticなリスクについても子供の方が影響が強いことが示されている (table 14)。


⑥ ヒトにおける放射線被ばくによる遺伝的影響については、疾患の明らかな増 加を証明するデータはないとされている。(注6)
(注6)UNSCEAR 2000 Annex G.177「ヒトの疾患に結びつくような遺伝的影響 について、定量的情報を与えるような直接的データは今のところない」


→UNSCEAR2010 p.12からの B. Heritable effects of radiation exposure
Paragraph 36). Unlike the snuiies OIl radiation-associated cancer, epidemiological snldies have nol provided clear evidence of excess heritable effects of radiation exposure in humans. 中略 

Neither do they confirm there is no risk of heritable effects, because detecting a small excess incidence associated with radiation exposure above a fairly high incidence in contaminated populations (table 2) is difficult.

 人間については、「明確」な遺伝的な影響は観察されていない。ただしTable2に あるように遺伝的な欠陥は頻度が高いため、放射線による影響を検出しにくい という限界がある。

 Paragraph 38. The clearest demonstrations of the heritable effects of radiation exposure come from extensive experimental studies on animals at high doses, particularly laboratory mice. 中略
Until recently, the doubling dose derived from mouse studies alone was estnnated to be 1 Gy, and this was applied to estimate hereditary effects in human populations receiving low-dose exposures over many generations.

 マウス実験では観測されているので、それの結果を用いて人間における遺伝的影響のリスクを推定している。→結果がTable2


 さらに、この資料では触れられていませんが、非ガン影響も存在。。 
 c. Radiation-associated non-cancer diseases
41. Radiation exposure of the developing embryo or foetus during pregnancy can also contribute to the appearance of non-cancer diseases in children. 中略 the Committee considers that there is a threshold for these effects at about 100 mGy.
→閾値は100mGy程度。

43. There is emerging evidence from recent epidemiological studies indicating elevated risks of non-cancer diseases below doses of 1 to 2 Gy. and some cases much lower.
→疫学によって様々な証拠が集まりつつある。 1-2Gyだが、もっと低いものもある。

 このように「考え方」で提示されている「科学的知見」は古く、偏ったものです。 これを前提にした議論は無意味と考えます。少なくとも春日委員が指摘された ように、こども、妊婦のリスクが高いこと、それへの対応を明示すべきです。

 なお、ICRP 111 では、帰還のみならず移住も選択肢としてあります。帰還の みに偏った議論はすべきではないことも併せてお伝えしたいと思います。

 以上よろしくお願い致します。