2019年7月19日金曜日



「甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ」改訂案[1]
 標記の部会まとめについて、その前提となる分析等の問題を踏まえて改訂案を示す。下線部が追記、修正部分、取り消し線は削除すべき部分である。
濱岡 豊


2019/7/18



 福島県県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会(以下「評価部会」という。)は、平成23年度から平成25年度に実施した甲状腺検査先行検査で得られた結果に対する評価として、平成273月に「甲状腺検査に関する中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という。)としてまとめた。中間とりまとめでは、先行検査の結果については「放射線の影響とは考えにくいと評価する」とした。
 平成29220日に開催の第26回福島県県民健康調査検討委員会において、本格検査(検査2回目:平成26~27年度)の検査結果のまとめ及び評価を行うため、評価部会を招集することが提案された。この提案を受けて、平成2965日に検討委員会との合同で第7回評価部会、新たな評価部会員構成により平成291130日に第8回評価部会を開催し、令和元年63日の第13回評価部会に至るまで、計7回にわたる評価部会において審議を重ねた。
 これまでの審議内容を踏まえ、本格検査(検査2回目)の結果及びその結果に対する見解、今後の検討課題等を本評価部会としてのまとめを以下に示す。
 なお、「中間とりまとめ」では、「今後、仮に被ばくの影響で甲状腺がんが発生するとして、どういうデータ(分 析)によって、どの程度の大きさの影響を確認できるのか、その点の「考え方」 を現時点で予め示しておく必要がある 。 [2]」と述べたが、これについてはまったく議論しなかった。この点について大いに反省する。

1甲状腺検査本格検査(検査2回目)で得られた結果について
 平成264月から開始した本格検査(検査2回目:平成26~27年度)では、先行検査における対象者(平成442日から平成2341日までに生まれた福島県民)に加え、平成2342日から平成2441日までに生まれた福島県民を加え、約38万人を対象とした。平成29630日現在で約27万人が受診し(受診率71%17歳以下の受診率86.4%18歳以上の受診率25.7%)、二次検査の対象者であるB判定は2,227(0.8%)C判定は0人であった。二次検査において穿刺吸引細胞診を行った方のうち、71人が悪性ないし悪性疑いと判定された(10万人対26.2、男性32:女性39人、平均年齢16.9±3.2(9-23)、震災当時平均年齢12.6±3.2(5-18)、平均腫瘍径11.1±5.6mm)(参考:手術実施52人のうち、乳頭がん51人、その他の甲状腺がん1)
 先行検査における甲状腺がん発見率は、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推計される有病率に比べて、数十倍高かった。本格検査(検査2回目)における甲状腺がん発見率は、先行検査よりもやや低いものの、依然として数十倍高かった。チェルノブイリ核災害では被曝後4年以降に甲状腺がんの増加が観察されたことから、1回目検査は、被曝の影響がない状態での甲状腺がんの状況を把握し、放射線の影響があるならば、2回目検査から観察されると想定していたが、その通りの傾向となった。主要な結果を地域別に集計した(表1)

 地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率について、先行検査で地域の差はみられなかったが、性、年齢等を考慮せずに単純に比較した場合に、本格検査(検査2回目)においては、避難区域等13市町村0.053%、中通り0.028%、浜通り0.022%、会津地方0.014%の順に高かった。性や検査時年齢調整が必要とのして見もあるが、4地域での女性の割合はいずれも48%程度であり、大きな差は無い。検査時年齢は避難区域等13市町村が最も若い(11.8)。検査時年齢が高いほど、発見率は高くなるので、これらによって調整すると、さらに地域差差は拡大する。よって、先行検査では悪性もしくは疑いの発見率に地域差はなかったが、本格検査(1回目)では有意な地域差が見いだされたことになる。
 しかし、悪性ないし悪性疑いの発見率には多くの要因が影響していることが想定されるため、参考までに、考えられる状況について検討を行い、その結果、次の傾向が見られたが、上記の結果には影響を与えそうにない。
・先行検査で5.1mmから10mmの結節の発見率が避難区域等13市町村で低いことや、本格検査でB判定であった者の中で先行検査においてもB判定であった者の割合が避難区域等13市町村で低かったことから、本格検査の結果に先行検査の結果が影響している可能性が示唆された。
・先行検査と本格検査の検査間隔が長いほど細胞診実施率と悪性ないし悪性疑いの発見率が高い。ちなみに、平均検査間隔は避難区域等13市町村が最も長かった。ただし、最も長い避難区域の2.48年は、最も短い会津地方の1.87年の1.3倍程度に過ぎない。これに対して前述の通り、「悪性ないし悪性疑い発見率」は、避難区域0.053%、会津地方0.014%と、3.7倍も高くなっており、検査間隔の影響では説明しきれない。
・細胞診実施率は先行検査を含めて年々低下している。また、本格検査(検査2回目)における細胞診実施率は、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に低下していた。ただし、細胞診のヒット率は4地域間でほぼ同一であった(順に44.7%32.8%41.744.4%)。実施施率の差は所見の悪さを反映していると推測される。
・先行検査で細胞診を実施している場合には、先行検査で細胞診を実施していない群と比較して、本格検査における細胞診実施率および悪性ないし悪性疑いの発見率が低くなる傾向がみられた。これは先行検査での所見Bが本格検査でも大きくかわっていない場合には、細胞診をしていないためだと考えられる。また、「細胞診実施数(1巡目B判定者)」について、「避難区域等13市町村」では0名となっている。これは1巡目で既に細胞診を行い、2巡目での所見に大きな変更がない場合には、細胞診をしていないためと考えられる。逆にいえば、2巡目「避難区域」で「悪性もしくは疑い」と判定された17名は1巡目でA2(5.0mm以下の結節)だった可能性が高い。平均検査間隔2.48年で、進展した可能性があり、ゆっくり成長するがんと考えるべきではない。
1 地域別にみた1巡目(先行検査)2巡目(本格検査(1回目))の結果



出所)1巡目は 表9.地域別にみたBC判定者、および悪性ないし悪性疑い者の割合(平成29331日集計) 2巡目「表1  地域別にみた本格検査(検査回目)の悪性ないし悪性疑いの発見率*」 2巡目の結果は1巡目も受診した方に限定。
省略
Source) スクリーニングについては、下記より作成。



2甲状腺検査本格検査(検査2回目)における甲状腺がん発見率と放射線被ばく線量との関連に関する予備的解析について
 これらの検討の結果より、性・検査時年齢の他、検査実施年度、細胞診実施率、先行検査からの検査間隔、先行検査での細胞診実施の有無など多くの要因が悪性ないし悪性疑いの発見率に影響を及ぼしていることが考えられる。従ってたが、大きな影響は与えそうにない。将来的に甲状腺がん発見率と線量との関連を検討するためには、これらの要因を制御するための解析をする必要がある。線量としては、暫定的に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)で公表された年齢別・市町村別の内部被ばくを考慮した推計甲状腺吸収線量を用いた。UNSCEARの線量が1歳、10歳、20歳について、推定されているため、まず、5歳以下を分析から除外した。そして、6-14歳、15歳以上に分けて分析した。これによってサンプルサイズが減少し、検定力が低下した。さらに、1歳、10歳、20歳のUNSCEAR被曝量は年齢と相関しているため、このように区分すると線量範囲も限定することになる。これらによって、検定力が大きく低下した。これらを考慮せず、分析したところ、6-14歳については、線量との有意な関係はなかった。一方、15歳以上については、発見率と線量には負の相関があった。その結果、線量と甲状腺がん発見率に明らかな関連はみられなかった。後者については、過去の知見と反する結果であり、分析に問題があったと判断する。全員のデータを用い、各個人の年齢に応じたUNSCEARの線量推定値をあてはめて分析する必要がある。さらに、Ohira3つの論文では基本調査で推定された外部線量を用いた分析も行っている。2巡目についての分析では、外部線量が推定されている約10万人を用いて分析した結果、1mSvを基準とした2mSv以上被曝の相対リスクのp値は13%となった[2.09 (0.81 to 5.40; = 0.13).][3]1巡目については、同0.76 (0.43–1.35)であったことからも、2巡目では、リスクが明確に高くなっているといえる。この他、外部研究者によるものとしては、1巡目に引き続いて地域間比較を行った津田(2018)[4]、外部線量に基づいて地域を4区分し、外部線量と1巡目と2巡目の甲状腺がんの合計数の相関を分析したKato(2018)[5]ではそれぞれ、有意な結果が得られている。がんだけでなく「結節」についても1巡目と比べて2巡目はprevalenceが有意に高いことが示されている[6]

3所見
 一次検査の結果での精密検査が必要となるB判定の割合や悪性ないし悪性疑いの発見率は、事故当時の年齢、二次検査時点の年齢が高い年齢層ほど高かった。これは、チェルノブイリ事故後に低い年齢層により甲状腺がんが多く発見されたものと異なっている。年齢の上昇に伴いがんが見つかることは、一般的ながんの発症と同様である。ただし、先行検査と比べて本格検査では、事故時年齢の平均値は低下しており、今後、事故時により低年齢層であった子供からがんがみつかる可能性は高い。なお、このような比較を行う際は、福島では事故後半年後から甲状腺検査が開始されたが、チェルノブイリでは4年程度経過してから検査が開始されたことを考慮すべきである[7]。また、初期に行われたスクリーニングは、事故時4歳以下が大半を占めており、そもそも対象者が多いため、多く見いだされた可能性もある(2)
 男女比がほぼ11となっており、臨床的に発見される傾向(16程度)と異なる。潜在癌で見つかる場合や、年齢が低いほど男女比が小さくなる傾向などの報告もあるが、男女比と被ばくとの関係についての評価は今後の課題として残されている。悪性ないし悪性疑いの発見率を単純に4地域で比較した場合においては、差があった。るようにみえるが、それには検査実施年度、先行検査からの検査間隔など多くの要因が影響すると考えられたがそうではなかった。しており、それらの要因を考慮した解析を行う必要がある。
 発見率に影響を与える要因を可能な限り調整し、暫定的に年齢別・市町村別UNSCEAR推計甲状腺吸収線量を用いて行った線量と甲状腺がん発見率との関連の解析においては、線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・応答効果関係)は認められない5-14歳では有意な関係は得られなかったが、15歳以上では線量と発見率には有意な負の相関があった。後者は過去の知見と相反する結果であり、分析の妥当性が疑われる。このような不適切な結果が得られたのは、分析対象を区分したことなどにあると考えられる。再分析が必要である。

 4地域比較では、線量の高さを概ね反映して区分を行った。1巡目では地域間で有意な差はなかったが、2巡目では、線量が高いと想定される地域ほど発見率が高い有意な傾向があった。これは集計レベルでの分析であり、因果関係を結論付けることはできないが、個人レベルのデータを用いて適切な分析を行うことによって、確認すべきである。その際は、12回、13回評価部会がおこなったような不適切な分析ではなく、全員のデータをもちいて、各個人に居住市町村レベルでのUNSCEAR推定甲状腺被ばく線量をあてはめて推定するべきである。基本調査の線量についても同様に分析することが可能である。

現時点において、甲状腺検査本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない。

4甲状腺検査に対する対象者への説明について
 甲状腺検査対象者への説明内容について、評価部会において議論を進めてきたが、今後も対象者に対して甲状腺検査のメリットやデメリットを含め丁寧に説明し、理解を得るとともに、同意を得た上で実施することが重要である。

5今後の評価の視点について
 平成28年度から検査3回目、平成30年度から検査4回目が行われており、それらの検査結果を蓄積した解析を行う必要がある。
 また、県民健康調査甲状腺検査の受診率は年々低下がみられ、特に高等学校卒業後の年代の受診率が低く、今後も低下が予想される。また、県民健康調査甲状腺検査とは別の機会に発見される事例も増えてくる可能性も考えられる。これまでの分析では、これらについては無視して分析しており、悪性もしくは疑いの発見率を低く見積もっていることになる。甲状腺検査の枠外の件数も含めた検討、分析を行う必要がある。
 このことを含め、地域がん登録及び全国がん登録を活用し、甲状腺検査対象者のがん罹患状況を把握することにより分析することが必要である。なお、がん登録データによると、福島県においては、震災後、男性における大腸がん罹患率の年平均変化率は有意に高くなっている。同様に女性においては、大腸がん、甲状腺がんの罹患率の震災前後の変化率の比が有意に1よりも大きくなった。甲状腺がん罹患率について、性別、年齢層別にみると、甲状腺検査の対象である、0-19歳のみならず、男性においては20-39歳、女性においてはこれらに加えて、40-59歳の年齢層でも増加傾向がみられる[8]。検診を受ける機会が高まったためだと考察しているが、例えば女性40-59歳の「年齢階級別がん罹患発見経緯の分布(甲状腺):福島県、性別」をみると、健診・人間ドックによる発見率は20122013年とも20%程度であり、2008年と同様である。
 これまでは、成人が放射線被曝しても甲状腺がんにはならないと考えられてきたが、近年の研究によると成人における放射線被曝も有意にリスクが高まることが示されている[9]。子供のみならず、成人を対象とした健診も拡充させる必要がある。
 このように不適切なデータの解釈、分析を行ってきた。まずは、個人レベルの全データを用いて、線量の代わりに4地域区分ダミーを用い、年齢、性別、1巡目の結果、1巡目からの期間などを説明変数とした分析を行うことによって、集計レベルでのトレンドが、個人レベルでも検出されるかを分析すべきである。4地域区分ダミーの代わりに、UNSCEARの線量をそのまま用いた分析、基本調査で推定されている外部線量を用いた分析も同様に可能である。これらの分析だけでなく、外部線量については、より検定力の高い症例対照研究も行えば、線量応答関係をより厳密に議論可能となる。
 中間とりまとめでは、「今後、仮に被ばくの影響で甲状腺がんが発生するとして、どういうデータ(分 析)によって、どの程度の大きさの影響を確認できるのか、その点の「考え方」 を現時点で予め示しておく必要がある 。 [10]」と述べたが、これについてはまったく議論しなかった。
 1巡目の結果取りまとめ()で座長は、これが全くないと、「後付けで」評価がなされるかもしれないとの疑念をいたずらに招いてしまうこととなる。[11]」ことを指摘した。残念ながら、UNSCEARなど後付けの分析を行ってしまったことを反省し、事前に分析の方法を決定しておくべきである。
 いずれにしても、現段階で放射線被曝と甲状腺がんに相関がある可能性が高いことが示された。迅速な対応をおこなうべきである。
 さらに、将来的には、より詳細な推定甲状腺被ばく線量を用いて、交絡因子等を調整した症例対照研究や前向き研究として、線量と甲状腺罹患率との関連を検討する必要がある。
 これらの視点をもって、今後の評価部会、検討委員会での検討を進める必要がある。

2 チェルノブイリ後の笹川プロジェクトでのスクリーニング状況と甲状腺がん(ベラルーシ)


 Table A15-T01 (*) and Table A17-T01(**) in Yamashita and Shibata (1997) Chernobyl: A Decade. Amsterdam: Elsevier; 1997.
甲状腺がんについての年齢層別集計結果は同書には掲載されていないので、下記から集計。
山下俊一(2000), "チェルノブイリ原発事故後の健康問題原子力委員会 長期計画策定会議第五分科会(第5回)平成12229



[1]オリジナルは35回「県民健康調査」検討委員会(令和元年78日)
 資料5-2 甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-35.html
[2]http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/174220.pdf
[3]Ohira, T. et al. (2019), "External Radiation Dose, Obesity, and Risk of Childhood Thyroid Cancer after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident: The Fukushima Health Management Survey," Epidemiology.
[4]津田敏秀(2018), "甲状腺がんデータの分析結果と疫学理論:20171023日第28回福島県「県民健康調査」検討委員会発表より," 科学(岩波書店), 88 (1), 42-49.
[5]Kato, Toshiko (2008), "Re: Associations between Childhood Thyroid Cancer and External Radiation Dose after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident," 30 (2), e9-10.
[6]Akiba, S. et al. (2017), "Thyroid Nodule Prevalence among Young Residents in the Evacuation Area after Fukushima Daiichi Nuclear Accident: Results of Preliminary Analysis Using the Official Data," Journal of Radiation and Cancer Research, 8 (4).
[7]例えば笹川財団(現日本財団)支援によるスクリーニングは1990年から開始された。
笹川記念保健協力財団(2006), 笹川チェルノブイリ医療協力事業を振り返って笹川財団 http://www.smhf.or.jp/data01/chernobyl.pdf.

[8]大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学(2018), がん罹患および死亡の動向(福島県および周辺県): http://www2.med.osaka-u.ac.jp/envi/20180706/ 2019/7/17 access.
[9]Mabuchi, Kiyohiko, Maureen Hatch, Mark P. Little, Martha S. Linet, and Steven L. Simon (2013), "Risk of Thyroid Cancer after Adult Radiation Exposure: Time to Re-Assess?," Radiation Research, 179 (2), 254-56.
[10]http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/174220.pdf
[11]甲状腺検査評価部会(2015a), "資料2 甲状腺検査に関する中間取りまとめ(部会長取りまとめ案)," 第6回「甲状腺検査評価部会」(平成27年3月24日開催)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdfaccessed 2019/6/20.

2019年7月5日金曜日

第13回 甲状腺検査評価部会 中間とりまとめ(案)およびその前提について
(Typoなどは適宜訂正した)

2019/7/5 いろいろ問題があると考えられるので、下記の趣旨のメールを関係者に送信(相手によって文面などは変更)。


 健康調査検討委員会および甲状腺検査評価部会における議論ありがとうござい ます。
先日の会議および資料
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-b13.html
資料1-2 市町村別UNSCEAR推計甲状腺吸収線量と悪性あるいは悪性疑 い発見
率との関係性," 第13回甲状腺検査評価部会

を拝見したところ、以下の方法論的な問題があるように思います。とりまとめ の前に再分 析もしくは追加分析すべきだと考えますので、メールさせていた だきます。
ご検討の程よろしくお願い致します。

1)結論について
資料3 甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ(案)では次のように述べられています。

「線量としては、暫定的に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR) で公表された年齢別・市町村別の内部被ばくを考慮した推計甲状腺吸収線量を 用いた。 その結果、線量と甲状腺がん発見率に明らかな関連はみられなかっ た。」

 これは、6-14歳を分析した場合には線量と悪性もしくは疑い発見率との関係 は有意ではない。一方、15歳以上を分析した場合には、「負」で有意な関係がある という結果であるためのようです。
 特に後者は質疑応答で大平先生が回答されていたように、常識とは異なる結 果であり、分析自体の妥当性を問うべき問題だと考えます。
 少なくとも全員もしくは6歳以上をプールしたデータで再分析し、それよりも 今回の分析の方がモデルの適合度が高いことを示すべきだと考えますがいかが でしょうか。

 以下具体的に問題点をさせていただきます。

2)対象者を分割した分析について
 0-5歳児を除き、6-14歳、15歳以上に分けてそれぞれについて、分析されて います。これは、UNSCEARの線量が、1、10,成人(20歳)について推定されてい るためでしょうか。
 このようにサンプルを分割すると、statistical powerが低下することは自 明です。
 さらに、UNSCEARの甲状腺吸収線量推定値は、被曝時年齢と負の相関があり ます。例えば、いわき市の1歳、10歳、成人(20歳)の推定値はそれぞれ、 51.9、31.2、17.4(mSv)です。
 このように、被曝時年齢で分析対象を分けることは、被曝量の大小によって サンプルを分割することに等しくなっています。実際、資料の横軸をみても、 6-14歳では、20mGy未満から30mGy以上までの4区分となっているのに対して、 15歳以上では10mGy未満から20mGy以上までの4区分となっています。
 ロジスティック回帰を含む、一般化線形モデルの係数の推定値の検定量(t値 もしくはz値)は説明変数の分散の平方根に比例しますので、線量の範囲を限定 すると、分散も小さくなり、さらに検定力が低下します。
 全員のデータを用いた分析を行うべきだと考えます。

 少なくとも、現在のように分割して推定したモデルと、全データをもちいた 結果のあてはまりをAICなどで比較して、どちらが適合度が高いかを比較すべ きでしょう。

3)線量をカテゴライズした分析について
 線量は連続量ですが、4区分されたようです。関数型を探索するために、こ のような分析をすることは妥当ですが、線量の値をそのまま使った推定も行 い、それとの比較もすべきだと考えます。

4)必要な情報の明示
 分析の基礎となる、各線量毎の対象者人数、罹患数、さらに、資料には示さ れていませんがトレンド検定もされたとのことです。その検定結果や、スコア の与え方についての情報もありません。
 2巡目については、(1)性・検査時年齢、(2)性・検査時年齢・検査年度、(3)性・検査時年齢・検査間隔、(4)性・検査時年齢・検査間隔・検査年度といっ たモデルを推定されています。それぞれのモデルの適合度を明示し、最良のモ デルを選択すべきだと考えます。
 そのためには各モデルの推定値のみならず、尤度、AICなども明示すべきだ と考えます。これら必要な情報を明示して頂けないでしょうか。

5)結果の解釈
 部会でのやりとりによると、トレンド検定もされ、15歳以上、(4)性・検査時年齢・検査間隔・検査年度調整モデルでのみ、負で有意な結果が得られた とのことです(最大、最小値ともに)。
 これは常識と反する結果なので、無視するといった応答をされていますが、 ホルミシス効果など、この結果を活用しようとする者も現れる可能性があります。
 このような結論をだされるのであれば、上述のように、全体を用いた分析よ りも、今回のように分割した分析の方がモデルの適合度が高いこと、線量連続 よりもカテゴリ化した方がモデルの適合度が高いことを示すべきだと考えます。
 同様に(1)から(4)のモデルのなかで、(4)が最良であること、さらに、(検査 時)年齢、検査年度、検査間隔は相関しているはずですので、多重共線性の問 題が生じていないことも確認すべきです。

 これらの観点からも再分析および追加分析をして頂く必要があると考えます。
是非ともご検討の程よろしくお願い致します。

濵岡豊
慶應義塾大学商学部