2021年4月7日水曜日

   『科学』 2021年5月号 (2021年4月末発行)

濱岡 豊「COVID-19 対策の諸問題(4) 都道府県による対策の評価試論

サポートページ

上記論考のAppendix

 紙幅の都合で掲載できなかった部分を公開します。

2021/5/2 訂正

 10指標のうち「累積陽性*人口」を累積陽性率と誤って説明していました。意味としては、検査での陽性率が 全県的、時期的にも一様だと粗い仮定をし た粗感染者数と解釈できます。変数名、ラベルの誤りであり、数値に変更はありません(訂正箇所を赤字で示しています)。ニュースリリースも修正、「科学」掲載の論文も下記2箇所訂正を依頼します。申し訳ありません。

p.438 右段 「健康影響の項 累積陽性率→累積陽性率*人

p.439 凡例内 「累積陽性率→累積陽性率*人

ニュースリリースの訂正版by濱岡文責版(連休明けに大学からも訂正版予定です)pdfはこちらです


内容

I  COVID-19対策関連指標について

II 47都道府県のCOVID-19関連指標のトレンド




I  COVID-19対策関連指標について


COVID-19対策関連のランキング

評価に用いる指標を決定するために、COVID-19対策に関するランキング例を見ておこう。表には3つのランキングについて、用いている指標を「健康影響」「対策」「市民の協力」「経済影響」「インフラ」に分けてまとめた[1]

オーストラリアのシンクタンクによる”Covid Performance index”6指標を用いているが、いずれもCOVID-19の健康影響に関する項目である。うち検査陽性者数、死亡者数を絶対数、人口あたりに換算して用いており、健康影響に注目した重複度の高い指標となっている。これらは日次データだが2週間平均した20211月時点での値を用いてランキング表を作成している。ここで用いられている指標は濱岡豊(2020, 2021)でも概観したが、日本の陽性者数などは欧米よりも少ないが台湾などよりも多かった。よって、このランキングでも日本は45位となっている。

米国の経済誌Bloomberg“COVID-19 Resilience Index”健康影響に加えて「対策」として「ワクチン調達率」「ロックダウンの厳しさ」「人流」さらに「経済影響」「インフラ」も含めている。ニュージーランド、台湾などが上位にあるのは、”Covid Performance index”と同じだが、日本が比較的高く評価されている。これは欧米と比べると陽性者数が少ないこと、インフラ2指標が高いことによる。

Nuclear Threat Initiative and Johns Hopkins Center for Health Securityによる”Global Health Security (GHS) Index”は自然発生もしくはテロなどによる生物学的脅威への対応する能力を評価し、改善するために開発された指数であり(NTI & JHCHS 2019)COVID-19に直接関係した指標ではないが参考になるので概観する。表にあるように「防御」「検出」「対応」のカテゴリ、それをサブカテゴリに分け合計140指標で各国の代表者に回答してもらい総合化している。COVID-19による大きな影響を受けている米国、英国が1,2位にランキングされていることから指標の妥当性には大きな疑問がある一方で、タイ、韓国など、COVID-19対策に比較的成功している国が上位に位置づけられている。日本は195ヵ国中21位と比較的高いが、表にある6つのカテゴリ別のランキングをみると「規範」で13位となっているほかは、感染症対策に重要な「防御」40位、「検出」35位、「対応」31位と低くなっており、COVID-19への対策の不備も事前に予想されていたともいえる[2]


表 COVID-19対策ランキングと指標

 

名称

LOWY INSTITUTE”Covid Performance Index (*1)

Bloomberg “COVID-19 Resilience Index”(*2)

 NTI & JHCHS “Global Health Security Index”(*3)

本研究

上位10ヵ国

(評価対象)

ニュージーランド/ベトナム/台湾/タイ/キプロス/ルワンダ/アイスランド/オーストラリア/ラトビア/スリランカ

(日本は45/下記指標の入手可能な98ヵ国)

ニュージーランド/台湾/オーストラリア/ノルウェー/シンガポール/フィンランド/日本/韓国/中国/デンマーク

(Ecomomic Value2000億ドルを超える53ヵ国)

米国/英国/オランダ/オーストラリア/カナダ/タイ/スエーデン/デンマーク/韓国/フィンランド

(日本は21/下記指標の入手・回答可能な195ヵ国)

-

集計期間、間隔

202119日までの日次データの2週間平均

1ヶ月毎に集計して更新中

2019年時点

2021320日までの累積。

健康影響

(-)検査陽性者数

 

(-)死亡者数

(-)人口あたり検査陽性者数

(-)人口あたり検査陽性者数

(-)人口あたり累積検査陽性者(*5) 

(-)人口あたり死亡者数

(-)人口あたり総死亡者数

(-)人口あたり致死率

(-)累積陽性者致死率(*5)

(-)検査陽性率

(-)検査陽性率 

 

 (-)累積陽性率*人(*5)

対策

人口あたり検査数

累積陽性者あたり累積検査人数(*5)

 

ワクチン調達率

人口あたり受入確保病床数(*6)(w)

 

(-)ロックダウンの厳しさ

(-)自宅療養率(*6) (w)

市民の協力

 

(-)人流(オフィスおよび商業地域)

 

(-)人流(乗換駅)(*7)

 

 

人流(居住地区)(*7)

経済影響

 

2020(予測)GDP成長率(y)

 

客室稼働率.前年比(*8)(m)

 

消費支出金額.前年比(*9) (m)

インフラ

 

健康保険加入率

防御(6:予防接種率等)

 

 

(国連)人間開発指標

検出(4:疫学従業者等)

 

対応(7:緊急時計画等)

 

健康(6:病床数等)

 

規範(6:予算等)

 

 

リスク(5:政治リスク等)

 

指標の標準化

左に同じ

左に同じ

偏差値

ウエイト

等ウエイト

等ウエイト

専門家による判断(*4)

等ウエイト

(*1) https://interactives.lowyinstitute.org/features/covid-performance/

(*2) https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-11-24/inside-bloomberg-s-covid-resilience-ranking

(*3) Nuclear Threat Initiative and Johns Hopkins Center for Health Security https://www.ghsindex.org 表中に示したのはカテゴリの名称であり、それぞれが数字で示すサブカテゴリに細分化され、それぞれに複数の指標が設定されている(合計140項目)

(*4)エクセルシートも公開されており、等ウエイト、主成分分析に基づくウエイトなども選択できる。

(*5)もともとは厚労省のデータ(pdf)をNHKおよび東洋経済がCSV化したもの。

検査陽性者数についてはNHKの方が早期から公開しているので、NHKのデータを用いた。NHKCSVには検査人数、重症者数などが含まれないため、それらについては東洋経済のデータを用いた。

NHKの都道府県データ

https://www3.nhk.or.jp/n-data/opendata/coronavirus/nhk_news_covid19_prefectures_daily_data.csv

・東洋経済の都道府県データ

https://raw.githubusercontent.com/kaz-ogiwara/covid19/master/data/prefectures.csv


(*6)厚労省「療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査(週次)」 を20207月以降の下記がCSV化したもの。

 https://www.stopcovid19.jp/data/covid19japan_beds/all.csv
(*7)Google
社モビリティ 
https://www.google.com/covid19/mobility/

(*8)観光庁「宿泊旅行統計調査 第8表(各月次)」 https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shukuhakutoukei.html
(*9)
総務省「家計調査 月次報告」 https://www.stat.go.jp/data/kakei/2.html (二人以上の世帯、消費支出金額、県庁所在地)

本研究の列、(m)(w)は、それぞれ月次、週次データ。これらが記されていないのは日次データ。


都道府県別人口は総務省「都道府県データ https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview/prefectures」から都道府県別総人口を検索。検索時点の最新は2018年度調査であった。



都道府県別のCOVID-19対策評価のための指標

実際にCOVID-19を行っているのは市区町村レベルだが、詳細なデータを得ることは困難であるため、都道府県を分析単位とする。表の5分類について他のランキングを参照して指標を選定した。まず、「インフラ」も重要だが、病床数などは「受け入れ可能病床数」に反映されるので、COVID-19に直接関連した指標のみを用いることとした。

「健康影響」に関しては「人口あたり累積検査陽性者数」、死亡に関しては「累積感染者致死率=累積死亡者数/累積陽性者数」を用いた。「対策」に関して、日本ではワクチンはまだ市民には接種されていないため導入できない。検査については「人口あたり検査人数」は「人口あたり累積検査陽性者数」との相関が高いため、「累積陽性者あたり累積検査数」、つまり一人の陽性者をみつけるのに何人検査したかを用いた。陽性者の治療も重要であるため「人口あたり受入確保病床数」、さらに病院に収容できず自宅療養中に亡くなるという極めて不幸な例を考慮するため「自宅療養率=自宅療養人数/(入院者数+宿泊療養者数+自宅療養者数)」も導入した。「市民の協力」としては「人流(乗換駅)」の少なさ、一方でステイホームという観点から「人流(居住地区)の多さ」を採用した。筆者は、まずは感染症対策を行い、感染率を下げる方が効率的だと考えてはいるが、「経済影響」も重視されているため指標に取り入れた。都道府県レベルでの官庁統計の月次データは極めて限られており、「家計調査・消費支出」「客室稼働数」の前年同月比を用いることとした[3]

期間別に集計し、更新していく方法もあるが、ここまでの対策を評価する観点から20201月から2021315日までの累積値、人流については日次データの最大値もしくは最小値、受入確保病床数、自宅療養者数は週次データの期間中のそれぞれの最大値を用いた。2つの経済指標は月次データであり、20201月から12月各月の前年比の幾何平均を用いた。

 

総合化の方法

これらには分類に示したように健康影響、経済影響など結果に関するものと、対策、市民の協力など影響を減少させるための方策が含まれている。それぞれの目的に応じて、各指標の高低を評価するべきであり、総合化する意味は必ずしも明確ではない。ただし、(インフラ)→対策→影響(の小ささ)という因果関係を想定すれば、これら指標を総合化した値が高いほどCOVID-19への対策が効果的に作用し、影響も小さくなっていると評価できるだろう。このため、これらを総合化した総合指標を作成する[4]

異なる指標を総合化するには、指標の標準化とウエイトを決定する必要がある。前章で紹介したランキングでは各指標のレンジ(最大値-最小値)で標準化しているが、この方法は、はずれ値があった場合、それが最大値や最小値となるため、大きく影響される。さらに異なる指標間の平均値の差異がそのまま反映されるという問題もある。よって、本研究では各指標から平均値を差し引いて標準偏差で除す標準化を行い、なじみがある「偏差値」で表現することとした。

ウエイトについては、GHS Indexでは専門家による判断を用いているが、他は等ウエイトとしている。ここでも各指標のウエイトは等しいとした。

どの指標を使うかについては、表に示した「健康影響」などのカテゴリ、それぞれに最低2項目は選定することとした。さらに、検査人数のように規模を表わす指標同士の相関は高くなるので、人口あたりなどで除すこととした。

 



[1] この分類は筆者による。

[2] 「健康」25位、「リスク環境」34位

[3] 商業動態調査も利用可能だが、最も影響を受けたと考えられる百貨店については、店舗数が少ないため企業秘密保持の観点から都道府県・月次データが公開されていない都道府県が存在したため、用いることができなかった。

[4] さらにGHS Indexのように、各サブカテゴリ毎にさらにランキング化することによって、各国の特徴や改善点を明らかにすることも可能となる。

謝辞

本研究は、慶應義塾大学特別研究費補助を受けた。関連データを公開された各者にも感謝する。

 

参考文献

Initiative, Nuclear Threat (2019), "2019 Global Health Security Index," https://www.ghsindex.org/wp-content/uploads/2019/10/2019-Global-Health-Security-Index.pdf.

 

濱岡豊 (2020), "Covid-19 対策の諸問題(1) 日本の特異性," 科学, 90 (10), 877-86.

 

---- (2021), "Covid-19 対策の諸問題(3) これまでの政策の定量的評価," 科学, 91 (4), 383-95.

 






II 47都道府県のCOVID-19関連指標のトレンド 3

2021322日時点でのデータ

 

○図A-1 都道府県別経済関連指標のトレンド(月次)

 ・以下のデータより作成 

下記の2019-2020年の月次データより2020年各月の前年比を算出。

・経産省 商業動態統計

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/kakuho_1.html

・観光庁 宿泊旅行統計調査

https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shukuhakutoukei.html

#第8表 "年、月(12区分)、施設所在地(47区分及び運輸局等)、従業者数(4区分)、宿泊目的割合(2区分)別客室稼働率 

・総務省「家計調査 月次報告」 https://www.stat.go.jp/data/kakei/2.html 

実際は下記のDBから(二人以上の世帯、消費支出金額、県庁所在地)を指定してダウンロード。

(家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 ) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003343671



横軸 2020/1-2020/1212ポイント。  縦軸 -80~40(%)

A-1 都道府県別経済関連指標のトレンド(月次) 


○図A-2 都道府県別病床関連指標のトレンド

厚労省「療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査(週次)」 

オリジナルは下記で2020428日以降公開(週次)。ただし、公開項目は変動し1216日まではpdfのみで公開。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00023.html

ここでは、下記が公開している20207月以降のcsvを用い、週次データを線形補完して日次データ化した。 https://www.stopcovid19.jp/data/covid19japan_beds/all.csv


自宅療養者率は同データでの自宅療養者/PCR検査陽性者数

ここで、分母は「PCR検査陽性者数は入院中及び入院確定者(一両日中に入院すること及び入院先が確定している者)、宿泊療養及び宿泊施設での入院待機者、自宅療養及び自宅での入院待機者、社会福祉施設等療養及び社会福祉施設等での入院待機者、確認中の患者の合計 [1]」とされており、厚労省のオープン・データでの検査陽性者数=報告された陽性者の数とは異なることに注意。

[1] https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000756214.pdf



横軸 2020/7/1-2021/3/22

 縦軸() 病床数など(人口10万人あたり)(0-50) 実線で表示。  縦軸() 割合など(0-50%) 破線で表示。

A-2 都道府県別病床関連指標のトレンド



A-3 都道府県別・COVID-19感染関連指標のトレンド

・各都道府県のデータは厚労省が毎日発表し、下記のページに集約されている。

新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料「発生状況、国内の患者発生、空港・海港検疫事例」

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html

 毎日「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和3年3月25日版)」のように全国の集計結果を公開し、ページ下部に「国内における都道府県別のPCR検査陽性者数:2021年3月25日掲載分」のように都道府県の累積陽性者数、累積検査人数を公開している。ただし、pdfのみである。

 

・これらをCSV化したデータをNHK、東洋経済が公開している。

検査陽性者数についてはNHKの方が早期から公開しているので、NHKのデータを用いた。NHKCSVには検査人数、重症者数などが含まれないため、それらについては東洋経済のデータを用いた。

NHKの都道府県データ

https://www3.nhk.or.jp/n-data/opendata/coronavirus/nhk_news_covid19_prefectures_daily_data.csv

・東洋経済の都道府県データ

https://raw.githubusercontent.com/kaz-ogiwara/covid19/master/data/prefectures.csv

Google    モビリティデータ ただし2020/ 2/15以降

https://www.google.com/covid19/mobility/

Appleの方が1月からデータを公開しているが(https://www.apple.com/covid19/mobility)、乗り換え駅、自動車、歩行の3分類である[1]。これに対して、Googleは乗り換え駅、居住地区、商業地区など細かく公開されている[2]ので、こちらを用いた。Googlesub_region_1として都道府県レベルのデータを公開している。

 

横軸 2020/1/1-2021/3/22

縦軸 左 0-10(/10万人)                    "red" "p検査陽性者数" ,"grey":"p検査人数(*)" "black":"p死亡者数×10(*)" 

縦軸 右 -70~50(%)                 "orange":"人流(乗り換え駅)" ,"purple": "人流(居住地区)" ,"green": "陽性率x2(*)"  ,"brown":"(Reff-1)x3+10"

 p10万人あたりを意味し、(*)は煩雑になるので7日間移動平均をプロットしたことを意味する。

 

[1] Appleのモビリティ関連の変数名はdriving" " walking"" transit”。変数名region都道府県を指定可能。202051112日は欠損だが前後の平均値で補完。

[2]Google変数名は次の通り。変数名sub_region_1で都道府県を指定可能。

 "retail_and_recreation_percent_change_from_baseline" "grocery_and_pharmacy_percent_change_from_baseline" "parks_percent_change_from_baseline"  "transit_stations_percent_change_from_baseline"     "workplaces_percent_change_from_baseline"           "residential_percent_change_from_baseline"