2012年2月21日火曜日

福島県民 健康調査について 情報収集
福島県 健康管理調査室 がとりまとめ。
     県民健康管理調査について  お知らせのページ
     県民健康管理調査検討委員会 この下に各種資料

・調査票について
 第3回配付資料 当日配布資料  調査票に取り入れる項目案など
   こころの健康については下記のような項目。(WHO 2006)を参照した。 
 "4歳~中学生には SDQ (Strengths and Difficulties Questionnaire)、15 歳以上には、全般的精神健康状態 については K6 (Kessler, 2003)、トラウマ症状については PCL (PTSD Checklist Stressor Specific Version, Weathers, 1994)"

・基本調査調査票 は公開されている
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/monshin.pdf

・詳細調査 福島県立医科大学
 地域のみなさまへ - 県民健康管理調査 / 公立大学法人 福島県立医科大学
 詳細調査(こころ、妊婦)調査票 5カ国語版 やさしい日本語もあるが、普通の日本語版がみあたらない。

参考)調査項目のワーディング(やさしい日本語、大人版)への疑問
Q14.2011ねん3がつ11にちの じしんの ことを ききます。
1) あなたが ほんとうに たいへんだったのは どれですか。たいへんだった もの ぜんぶに ✔を かいて ください。
1□ じしん
2□ つなみ
3□ げんぱつじこ(ばくはつの おとを ききました)
4□ なにも ありません

 

?? 爆発の音をきいていないが げんぱつじこ を大変だと思った人はどうするのか?

・「県民健康管理調査」進捗状況発表(平成23年12月13日発表)
   詳細資料  原発に近い3町村では回収率50% 全県では17% 

   
・県民健康管理調査」基本調査の外部被ばく線量の推計結果(第2報)(平成24年2月20日発表)pdf資料

2012年2月20日月曜日

 国家戦略室 - 政策 - コスト等検証委員会  call for evidence情報提供 2011/2/20 
国家戦略室 - 政策 - 発電コスト試算シート の自由度向上版 こちら の数値を下記のように変更。
(2-2)

*稼働率

戒能 一成 (2009)原子力発電所の稼働率・トラブル発生率に関する日米比較分析
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/09120006.html

近年の平均稼働率は60%台
万が一、今後稼働するとしても規制などが厳しくなること、老朽化が進むことから50%程度と想定することが適当。

それだけでも 8.9(円/kWh)→ 11.3(円/kWh)


*廃炉期間、費用

利用が終わった原子炉の解体も重要である。日 本では旧原子力研究所の試験研究用 BWR 炉であ る JDPR(熱出力90MW)の解体が行われた。1963 年に初臨界,1976年 3 月に運転を終了,1982年か ら解体が開始された。当初は10年計画であったが, 15年計画に延長され,1995年の跡地の整地までに 13年を要した
 原子力安全基盤機構(2009),平成20年度廃止措置に関する調査報告書【別冊】廃止措置ハンド ブック: http://www.jnes.go.jp/content/000014750.pdf


 現在,1966年に運転を開始し,1998年 3 月に営 業運転を停止した商業炉東海発電所(出力16.6万 kw)の解体が20年間の予定で行われている
  日本原子力発電(株)HP「ホーム>パイオニアとしての取り組み>東海発電所の廃止」
http://www.japc.co.jp/project/haishi/construction.htmlconstruction.html

費 用としては885億円が見込まれている。
  原子力安全基盤機構(2009),平成20年度廃止 措置に関する調査報告書【別冊】廃止措置ハンド ブック: http://www.jnes.go.jp/content/000014750.pdf , p.111


 以上より、7年とあるが、これら小型炉でも10年以上。保守的にみても20年はかかかる。
 費用については、16.6万 kwの東海でも885億。120万kwであれば出力に単純に比例するとして、120/16.6*885=7084億
 規模の効果が働く可能性がある一方で、期間が長くなることから割引率を勘案して この値とする。

 これで 12.2(円/kWh)


*損害
 損害想定額 5.8兆円とあるが、
 大島による 東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書 まとめ(大島「原発のコスト」岩波書店, p.42-43)によると、除染、5年後以降含まない段階ですら8.9兆円。

 廃炉費用は無事故で終了したものの費用だが、事故をした場合のことも考慮してここに参入する。


 スリーマイルは原子炉の外部形状には影響がなかった事故であり破壊はほとんどされていない。このため、スリー マイル島 2 号機では格納容器などは解体されず, そのまま残されている。それであっても、9.73億ドルの費用を要した。
American Nuclear Society“The TMI-2 Cleanup: Challenging and Successful”http://www.ans.org/pi/resources/sptopics/ tmi/cleanup.html

 下記にあるように、チェルノブイリでは割引率を考えなければ1兆円。実際に割り引くとしても、2兆円は必要であろう。

 チェルノブイリ100年間 年間100億円
ソ連時代の1986年、爆発事故を起こしたウクライナ・チェルノブイリ原発の管理当局のボブロ第一副局長は28日、同原発の解体までに「100年かかる」と述べ、原発事故の処理の困難さをあらためて強調した。タス通信などが伝えた。
 チェルノブイリ原発事故では、爆発した4号機をコンクリート製の「石棺」で覆ったが、石棺内には依然、大量の放射性物質が残存し、外部流出の懸念が消えていない。
 ボブロ氏は高濃度の汚染や、石棺の老朽化を挙げ、解体に向けた今後の作業に「毎年1億2500万ドル(約102億円)はかかる」と語った。同氏によると、ウクライナ政府は昨年9月から新たな石棺の建設事業に着手。2015年の完成を目指すが、巨額の資金調達が課題となっている。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2011033002100004.html


ということで、当初の5.8兆の4倍を算入しておく
さらに積立期間は、新規立地はないので、残りの平均寿命20年を代入する。

これで  15.9 円/kw

各種費用は上にも紹介したように、当初見込みより高くなる。これでもかなり保守的な見積もりである。
以上
 

2012年2月15日水曜日

食品の基準値導出について(pdf) へのコメント→下に問い合わせた結果も追加

1)パラメータの設定について
安全側に評価するとして、核種の存在比率については最大値を用いている。これについては評価したい。一方、土壌から農作物への移行係数(作物別)については、複数の作物がある場合には、「幾何平均」が用いられている(同pdf、p.5)。脚注にあるように、作物別の移行係数にはばらつきがおおきく、対数をとらないと正規分布にならないためである。

上記資料で引用されている放医研などのデータは発見できなかったが、旧原研の生物圏評価のための土壌から農作物への 移行係数に関するデータベース によると、Cs-コメの移行係数は196のデータがあり、最小で4e-5,最大で4.8e-1まで10000倍オーダーのばらつきがある(同,Table I-1)。このような場合には、幾何平均を用いると、リスクを過小評価する可能性が高くなる。最大リスクを想定するのであれば、最大値を用いる方が適切である。

この係数は、摂取量に重み付けられるが、穀物なども含む食料の大部分を含むものであり、幾何平均ではなく、最大値、中央値、幾何平均など、用いる値によって結果が大きくかわる可能性が高い。少なくとも、資料には下表に示されている程度の統計量を表示すべきである。


出所)落合透, 武田聖司, & 木村英雄. 2009..生物圏評価のための土壌から農作物への 移行係数に関するデータベース 日本原子力研究開発機構

2)感度分析の必要性
このようにパラメータの不確実性がある場合には、それらの値を変更したときにアウトプットがどの程度変化するのかを調べるべきである。このような作業は「感度分析」と呼ばれる。
パラメータの明示、それらを変化させたときの最大のリスクを明示した上でリスクもしくは基準値を決定すべきである。


蛇足?)パラメータの算出について
核種の対Cs137濃度比については、下記のような図が掲載されている。測定値を用いてその「傾き」から推定しているようにみえる。図にみられるようにこれらについては、あきらかに回帰モデルとしては不適切(最小二乗になっていなさそう)である。が、本文を読むと、比が最大になるものを用いたとあるので、回帰分析の結果ではなく、比が最大になる点のデータを用いているのだろう。
そうであれば、このような直線は不要である。いったい何を意味する直線なのだろうか?

出所)食品の基準値導出について(pdf)

追加)上記2点について担当者に問い合わせ。幾何平均について、文章からは上記のように解釈したが、担当者はその文章の上の4つの機関の最大値をというのもかかる=個別作物ごとには4機関のうち最大値を用いる。それを大分類にくくるときに幾何平均した。と解釈しているよう。感度分析したのか、あわせて確認依頼中。
いずれにしてもパラメータの基本になる情報は明示すべきである。

問い合わせへの返答) 私の記憶の中なので趣旨。
(担当課員) 担当した委員に確認したところ、ばらつきが大きいので確かに最大値を用いると大きな値になる可能性もある。そのため、幾何平均を用いている。それはよく用いられている妥当な方法である。
 感度分析はたしかに重要だが、パラメタが多数あるので、するかしないか検討が必要。
 10倍ぐらい値を振ってみたが規制値には大きな影響はなかった。
(私)重要な問題なのでそのエクセルシートの公開が必要なのではないか。
(担当課員)そのとおりであるが、公開はしていない。
   感度分析の必要性などについても検討したい。
(私)具体的に検討するとしたらいつになるか? 
(担当課員)検討したい。
ということであった。移行係数は上にあるように10^4オーダーの違いがあるので、10倍では不十分であるが、自前ですべて計算するのはなんなので、どうするかな。


1)パラメータの設定の続き
 同pdfの図1では土壌から農作物への移行しか考えていないが、大気中から直接表面に付着する。といった経路も無視できないはず。
 さらに、内部被曝線量係数(同pdf p.22 下に引用)は放射性物質の量を身体への影響に換算する重要な係数。ICRP72の値を使っている。年齢別だが男女別には値が設定されていない。
 被爆者データの固形ガン死亡率データ(Preston et al. 2003)では、30代での被爆者と比べると10代未満のリスク(ERR)は2.5倍になる。また、全体平均では0.47だが、男女別では女性の方が高くなる。しかし下記にあるように、男女別の値も設定していない。また年齢別にみても子供のリスクが過小評価されているようにみえる。
 (ICRP72ではもしかするとリスクの高い女性を想定しているのかもしれない。また、体内を要素に分割していじいじして計算するよう。これらは要確認)。
 いずれにしても、重要な問題なのでデータシートは公開してもらいたい。
出所)食品の基準値導出について(pdf) p.22

2012年2月6日月曜日


東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 中間報告への意見 (2012/1/25ごろ送信)

全体的に
 東京電力からの報告書と内容、論調は類似している。
 同じ現象、データを分析しているので、そうなるのは仕方ない部分もある。た
だし、事故の当事者からの情報ばかりでなく、同様の解釈をしている。以下の点を望む。

 当時者からの情報をまずは報告書に盛りこむこと
 東電からの解釈をそのまま繰り返すのではなく、批判的にまとめること。
 地震による配管への影響がなかったと今の時点で断定すべきではない。

以下、報告書ページ番号  ③ 国民が持っている疑問に答える(納得性)。  地震による配管への影響はなかったのか? を追加すべきである。  原子力災害本部による報告書(原子力災害対策本部 2011a,b)、IAEA(IAEA 2011)、東京電力の報告書(東京電力 2011)などによると、地震での重大な損傷はなく、その後の津波によって電源喪失が生じたことが原因であるとしているようである。  しかし、東京電力の日誌(白板を撮影して文字起こししたもの)をみると 、例 えば1号機だけでも「14:58 M.COND真空破壊」「15:06 純水タンク・フランジ部(腕3本)漏洩確認」とある。また、日誌には入力されていないが白板には「15:20電機ボイラー蒸気漏れ」が報告されている 。柏崎刈羽発電所でも震度6強の地震によって3,000を超える大小の障害が生じた。現在、事故調査委員会 による検証が進行中であり、安易に津波を原因と結論づけるべきではない 。 東京電力「東北地方太平洋沖地震発生当時の福島第一原子力発電所プラント データ集 4.運転日誌等 1・2号機 p.16」  http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/plant-data/f1_4_Nisshi1_2.pdf さらに Jnesの解析でも配管に0.3cm3分の亀裂が入った場合のシミュレーション結果と「有意な差はない」としている http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/800/28/004/231209-3-2.pdf ⑦ 起こった事象の背景を把握する。  これに関しては、6章 規制や基準設定に東京電力をはじめとした事業者の影響があったのではないか。検討すべきである。
例えば 平成23年度 原子力土木委員会  の下に
津波評価部会
活断層評価部会
構造健全性評価部会
地下環境部会
津波評価部会
津波評価部会委員名簿
原子力発電所の津波評価技術
確率論的津波ハザード解析
などがある。 その委員名簿も掲載すべきである。みてみると、下記の通り。
http://committees.jsce.or.jp/ceofnp/list_23
顧問 駒田 広也 (財)電力中央研究所
委員長 当麻 純一 (財)電力中央研究所
幹事長 大友 敬三 (財)電力中央研究所
委員 赤松 英樹 東京電力(株)
委員 井上 大栄 (財)電力中央研究所  
委員 梶田 卓嗣 九州電力(株)
委員 金谷 賢生 関西電力(株)
  以下省略
 以下、電力会社およびその出資による電中研のメンバーが並んでいる。中立な
検討がされてきたとは考えにくい。このような基準設定のありかた自体も問題にすべきである。
・そもそもの原子力発電所の設置として、  同じ場所に6基  原子炉建屋内に使用済み燃料プールを設置  かつ重量物である燃料ブールを高所に設置  3号機と4号機を配管でつないだために3号機から4号機に水素がまわり爆発  など、  というリスク分散の発想がまったくない設計になっていたことも大きな誤り。  確率安全評価の際も 例えば同じカ所にn基設置されていた場合には事故発 生の確率は少なくとも(n/p)とすべきであった。 ・原子炉を廃止にする基準の不在  日本で廃炉されたのは東海、浜岡1号のみ。F1のような老朽炉はそもそも廃炉 にすべきであった可能性が高い。  廃炉にする基準がないことも背景として重要である。 ・情報公開の問題も指摘すべきである。  SPEEDI メルトダウン  最悪シナリオ   など国によるもの  東電によるもの   情報公開がされなかったことによって大きな不信、問題が生じている。この 点に言及すべきである。 ・原子力行政の縦割りの弊害  商用炉は経産省  研究炉は文科省  モニタリングは文科省  労働者については厚労省   など縦割りになっており、例えばJCOの事故時への対応などが共有されてい なかったのではないか。   ⑤ 責任追及は目的としない。  この委員会ではそうかもしれないが、原因を明らかにしたならば、責任追及は 別の機関で行うべきであることは明示すべきである。 ⑥ 起こった事故の事象そのものを正しく捉える。  委員のみの解釈ではなく、国民が判断できるようにヒアリングなどの議事録 も公開すべきである。もちろん社員名を必ずしもだす必要はない。   ⑧ 再現実験と動態保存が必要である。  動態保存  現場を保存、監視すべきである。  Web カメラで遠くからみているだけであり、1号機はカバーされてしまった。  さらに、4号機の壁が崩されていることなど、現状が保存されているとは言い がたい。委員会のみならず報道陣など含めて現場の撮影はしておくべきである。 ・その他
 津波の構造物への影響
 上空からの写真をみると海側の建物は津波後もさして破壊されていない。こ
のことをどう考えるのか。津波による原子炉、主要設備への影響を過大評価して
いるのではないか。
  
他の事例との比較
 柏崎刈羽も地震で4000弱の不適合(うちAs 10件)が生じた。それよりも古い
F1でも機器への損傷があった可能性を否定できるはずはない。
http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/incomp/2011/data/ruikei2312.pdf

・報告書の体裁など 資料も 巻末ではなく本文に入れるべき。 ・事務局のかかわりについて
 報告書は各省庁の担当者からなる事務局によるものと考える。事務局のメン
バー、特に報告書をまとめた者の氏名、所属も明記すべきである。

以上

2012年2月5日日曜日

乳及び乳製品の成分規格等に関する省令 へのパブリックコメント(2012/2/4送信)


1.子供への影響を考慮した規制値の設定について
これまでの知見(参考資料参照)からすると子供のリスクは大人の3-10倍となる。また、年間被曝量1mSv程度の原発労働者の分析でも固形ガン死亡リスクが上昇することが見いだされている。
これらはいずれも外部被曝に注目したものであり、食 品による内部被曝は、さらに重大な影響を与える可能性がある。これらから、子供の年間被曝量を1mSvに押さえ るという基準は甘すぎる。
少なくとも、水と同じ1/10mSv程度に抑えておく べきである。 そうすると、いずれの食品についても、提案された値の1/10=5Bq/kg程度とするのが妥当である。

2.関連法体系の整備
規制値にのみ言及しているが、食品衛生法では
http://www.houko.com/00/01/S22/233.HTM
表示、監視、検査、罰則について規定している。
放射線という特殊な状況であるため、今回の基準が達成されているかを監視、検査する体制を事業者等に課すべきである。 特に表示については義務化させることが望ましい。

参考資料
・被爆者データの分析
・固形ガンによる死亡リスク(ERR)
 0-9才で被曝した者は成年で被曝した者の2.5倍 (下記Fig3)
Preston et al. (2003), "Studies of mortality of atomic bomb survivors. Report 13. Solid cancer and noncancer disease mortality: 1950-1997," Radiation Research, 160 (4), 381-407.

・同、 罹患リスク  
(0-9才) のデータは公開されていないが、 10代で被曝すると ERRは3倍 程度(下記Fig4)
部位別にみると膀胱ガン1.32  甲状腺1.2 その他 1.65 と極めて高くな る(TABLE 11)。言うまでもなく死亡数よりも罹患数の方が多い。
Preston et al. (2007), "Solid Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors: 1958–1998," Radiation Research, 168 (1), 1-64.

・白血病
年齢別の推定値ではないが、白血病全体で1.55  CMLでは6.39に達する。
Richardson et al. (2009), "Ionizing radiation and leukemia mortality among Japanese Atomic Bomb Survivors, 1950-2000," Radiation Research, 172 (3), 368-82.

100mSv以下では不確実だという言明が流通しているが、上記論文ではいずれ も線形仮説(もしくは2次項を導入したもの)を支持している。

・平成22年3月 原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査
この調査の対象の原発従事者の一人当たりの平均累積線量は13.3mSv(報告書 p.32合計列によれば10年以上勤務はこのうち28.2%)。
概ね年間1mSv程度を被曝。
それでも、 全新生物、肝臓がん、肺ガン、非ホジキリンパなどでは被曝量とと もに、死亡率は上昇。労働者は当然、成年以上で有り、子供への被曝の影響はさら に大きくなると推測するのが妥当。
以上

2012年2月1日水曜日

低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書 の問題点 その(1)


1.はじめに
 (低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ, 2011)が提出した報告書(以下WG報告書)には、さまざまな問題があるが、ここでは「2.1 現在の科学でわかっている健康影響(1)低線量被ばくのリスク」の問題点を指摘する。

2.同報告書の記述

・「低線量被ばくによる健康影響に関する現在の科学的な知見は、主として広島・長崎の原爆被爆者の半世紀以上にわたる精緻なデータに基づくものであり、国際的にも信頼性は高く、UNSCEARの報告書の中核を成している。
)広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは、被ばく線量が100 ミリシーベルトを超えるあたりから、被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加することが示されている[](同報告書, p.4,下線は引用者による。)
  
 ここで引用されている[1]とは下記の論文である。
 Preston, DL, Y Shimizu, DA Pierce, A Suyama, and K Mabuchi (2003), "Studies of mortality of atomic bomb survivors. Report 13. Solid cancer and noncancer disease mortality: 1950-1997," Radiation Research, 160 (4), 381-407.

3.上記部分の問題点
 この部分について、(1)初歩的な誤り、(2)低線量での線形仮説を支持する研究結果の無視の無視、(3)その他のガン、ガン以外の疾病の無視、(4)罹患(発症)の無視という4つの問題点を指摘する。

(1)初歩的な誤り
 WG報告書では「発がんのリスク」とあるが、上記の(Preston et al.  2003)はタイトルにあるよう「発ガン(罹患)incident[1]」ではなく、mortality(死亡率)を分析している。incidentの分析を行ったのは1958–1998年のデータを用いた(Preston et al., 2007)である。後述するようにガンに罹患した者の一部が死亡するので、母数としても、また過剰相対リスクも罹患の方が大きい。発ガン(罹患)と死亡の区別は明確に行うべきである。

(2) 線形仮説を支持する研究結果の無視
 WGが引用した(Preston et al., 2003)は、以下に紹介するように100mSv以下までを含む閾値なしの線型モデルが適切であると結論づけている。つまり、「被ばく線量が100 ミリシーベルトを超えるあたりから、被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加する」という閾値を想定した報告書の記述は誤りである。

 以下、(Preston et al., 2003)の結果、関連研究を紹介する。彼らは、次式のポアソン回帰によって分析した。 
λ0(s,a,e)[1+ρ(d) ks exp(θe+γlog(a))]
 ここで、λ0はベースラインであり、性別s、被爆時年齢a(調査時)到達年齢eの関数である。被曝量dについては、放射線の影響が直線的なのかを確認するために以下の5種類の定式化を行った。

 線量にかかるパラメータβは「過剰相対リスク (excessive relative risk)」と呼ばれ、被曝量が1Sv増加したとき増加する死亡数の割合を示している。以下、このパラメータのことをERRと表示する。

 推定した結果、単純な線形の関数を否定する証拠は得られなかったとしている[2]。下の図は線形モデルの推定結果とノンパラメトリックな推定値をあわせて示したものである。線型モデルの傾き、つまり過剰相対リスクERRは0.47であり、1Sv被曝すると(死亡者のうち)固形ガンで死亡する者の割合が(被曝しない者と比べて)47%増加することを意味する。
 ノンパラメトリックな推定値(黒い点)をみると2Svを越える部分で平坦になる傾向があるが、直線からの乖離は統計的には有意ではないとしている。さらに、低線量部分では、黒い点が直線よりも上に来ておりリスクが高いようにみえる。このため、被曝量0.12Sv(120mSv)以下のサンプルに限定して推定したところ過剰相対リスクERR=0.74となった[3]。ただし、90%信頼区間は(0.1,1.5)であり、全領域を用いた推定値0.47をこの区間に含んでいる。このため、全体の傾向と有意に異なるとはいえず、ある線量を超えると急に傾きが変化する「閾値」があるとはいえないとしている[4]
図表 被曝線量-反応関数の定結果(固形ガンでの死亡)
直線:線型モデルでの固形ガンによる死亡の推定結果
:ノンパラメトリック推定値
出所) (Preston et al., 2003) Fig.2

 (Preston et al., 2003)は死亡について分析したが、(Preston et al., 2007)は、寿命調査 がん「罹患」率データ(1958-1998)を用いて同様の分析を行った[5]。固形ガンについて、非線形パラメータγは有意ではなく、線形モデルがよくあてはまるとしている[6]。さらに0から0.15Gyの区間で推定しても有意な線量パラメータが得られ、この低線量領域における傾向は全領域での傾向と一致していたという[7]。参考までにいくつかの閾値を仮定して閾値モデルを推定したところ0.04Gyとしたモデルのあてはまりが最良であった。ただし、モデルのあてはまりは線形モデルの方が良好であった[8]
図表 被曝線量-反応関数の定結果(固形ガンの罹患)1958−1998
太い実線は、被爆時年齢30歳の人が70歳に達した場合に当てはめた、男女平均過剰相対リスク(ERR)の線形線量反応を示す。太い破線は、線量区分別リスクを平滑化したノンパラメトリックな推定値であり、細い破線はこの平滑化推定値の上下1標準誤差を示す。

 この他、これらよりも古いデータを用いているが(Pierce, et al., 1996; Pierce & Preston, 2000)でも低線量領域で被曝によってガンによる死亡、罹患率が有意に増加することを見いだしている。
 なお、これらの研究は複数のモデルをあてはめているものの、モデル全体の適合度指標が明示されていないという問題がある[9]。これに対して、(Richardson et al., 2009)は、白血病について同様の分析を行い、AIC(赤池の情報量基準)によってモデル選択を行った。この結果、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性については線形モデル、急性急性骨髄性白血病、白血病全体については1次および2次の項を導入したモデルのあてはまりが最良であったという。つまりいずれについても閾値モデルは採用されていないのである。

 WGの会合に専門家として招待された児玉和紀氏(放射線影響研究所主席研究員)はこの(Preston et al., 2007)の共著者である。しかし、同WGの報告では、上記のグラフを引用しつつも低線量での影響があることを示すものではないとしている[10]

(3)その他のガン、ガン以外の疾病の無視
 これらは固形ガン全体についての分析結果だが、(Preston et al., 2003)14部位別の推定を行い、10部位について正で有意なパラメータが得られている (下の図参照)。最もリスクが高い膀胱bladderガンでは症例数は少ないもののERR=1.25程度となっている。

図表  部位別の過剰相対リスク(死亡)
は点推定値、線は95%信頼区間。
出所) (Preston et al., 2003) Fig.4に加工。

 さらに、彼らは心臓病、脳卒中、呼吸器疾患などによる死亡についても推定した。その結果、ERR0.14前後と低いものの正で有意な値が得られている。
 また、(Richardson et al., 2009)は白血病について推定し、症例数は少ないものの[11]慢性骨髄性白血病で6.39、急性リンパ性で3.7、白血病全体でも1.55という有意な推定値を得ている。

 放射線による影響は成長の阻害など多岐にわたる(放射線影響研究所, 2007)WGは固形ガンによる死亡のみに注目しているが、他のリスクについても注目すべきである。

(4)罹患(発症)の無視
 ここまでは「死亡」に注目したが、罹患してから死亡するのであって、罹患の方が症例数が多く、統計的検定力が高まることが期待される。(Ron et al., 1994)によると、1987年時点のデータで固形ガンの罹患数8,612件、死亡数は6,887件が登録されていた。それぞれについて推定し、死亡のERR0.47であるのに対して、罹患のERRの方が0.65と高いことを示した[12]。彼らは部位別にも推定しているが、多くの部位で死亡率よりも罹患率のERRの方が高くなっている。

 なお、死亡については(Preston et al., 2003)、罹患については(Preston et al., 2007)の方が後に行われたため、症例数も多い。それぞれ固形ガンについてのERRを0.47/Sv0.47/Gyと推定している。ただし、線量について前者はDS86、後者はDS02を用いているため直接の比較はできない。これについて(Preston et al., 2004)は、固形ガンによる死亡について、それぞれの線量を用いたERRを推定した。DS86では0.45/SvDS02では0.42/Svであり、後者の方が値を低めに評価する傾向がある。線量評価方法が異なるが数値が同じということは、DS02を用いた罹患率の方がERRが高いことを示唆している。
 このように、罹患率の方が症例数が多いだけでなく、過剰相対リスクも大きいのである。死亡にのみ注目すべきではない。

4. まとめ
 ここでは、WG報告書「2.1 現在の科学でわかっている健康影響(1)低線量被ばくのリスク」の問題点を指摘した。同報告書では、広島、長崎の被爆者データの信頼性が高いといいつつも、「低線量での線形仮説を支持する研究結果の無視」「その他のガン、ガン以外の疾病の無視」「罹患(発症)の無視」といった問題を指摘した。死亡だけでなく罹患すること自体もリスクであること、ガンだけでなく他の疾病もリスクであることを考えると、これらを無視しているWG報告書はリスクを低く評価しているといわざるを得ない。

 WG報告書では次の節で長期的な被曝のリスクについての知見を紹介しているが、国内外の原子力・核施設従業者調査の結果を無視している。さらに、ここで引用した研究群についても、低線量に限定して分析することや、ほとんどの研究で複数のモデルを推定してもモデル選択の統計量が示されていないこと、相関の高い線量の1次項と2次項を同時に入れて推定していること、さらにはモデルそのものの定式化など、方法論的な問題がある。これらについては、別の機会に報告する[13]

参考文献
Hamaoka, Y. 2011. A Search for Better Dose-Response Function. Paper presented at the 14th International Congress of Radiation Research, Warsaw, Poland.
Pierce, D. A., & Preston, D. L. 2000. Radiation-related cancer risks at low doses among atomic bomb survivors. Radiation Research, 154: 178-186.
Pierce, D. A., Shimizu, Y., Preston, D. L., Vaeth, M., & Mabuchi., K. 1996. Studies of the mortality of atomic bomb survivors. Report 12, Part I. Cancer: 1950-1990. Radiation Research, 146: 1-27.
Preston, D., Shimizu, Y., Pierce, D., Suyama, A., & Mabuchi, K. 2003. Studies of mortality of atomic bomb survivors. Report 13. Solid cancer and noncancer disease mortality: 1950-1997. Radiation Research, 160(4): 381-407.
Preston, D. L., Pierce, D. A., Shimizu, Y., Cullings, H. M., Fujita, S., Funamotoa, S., & Kodama, K. 2004. Effect of Recent Changes in Atomic Bomb Survivor Dosimetry on Cancer Mortality Risk Estimates. RADIATION RESEARCH, 162: 377-389.
Preston, D. L., Ron, E., Tokuoka, S., Funamoto, S., Nishi, N., Soda, M., Mabuchi, K., & Kodama, K. 2007. Solid Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors: 1958–1998. Radiation Research, 168(1): 1-64.
Richardson, D. B., Sugiyama, H., Nishi, N., Sakata, R., Shimizu, Y., Grant, E. J., Soda, M., Hsu, W. L., Suyama, A., Kodama, K., & Kasagi, F. 2009. Ionizing radiation and leukemia mortality among Japanese Atomic Bomb Survivors, 1950-2000. Radiation Research, 172(3): 368-382.
Ron, E., Preston, D. L., Mabuchi, K., Thompson, D. E., & Soda, M. 1994. Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors. Part IV: Comparison of Cancer Incidence and Mortality. Radiation Reseach, 137: 98-112.
低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ. 2011. 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書: http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html.
放射線影響研究所. 2007. 放射線影響研究所要覧 http://www.rerf.or.jp/shared/briefdescript/briefdescript.pdf.




[1]放射線影響研究所では、incidentの訳として罹患()という語を用いている。なお、罹患と死亡のリスクを比較するには絶対リスク評価の方がわかりやすいが、WG報告書で扱われている相対リスクに注目してコメントする。
[2] "There is little evidence against a simple linear dose response, with the only apparent curvature being a flattening for those with dose estimates above 2 Sv that is not statistically significant (. 0.5). ,(Preston et al., 2003, p.386)"
[3] このように分析範囲を限定すると推定値の標準誤差が大きくなり、係数が0であるとい帰無仮説が棄却されにくくなるという問題がある。範囲設定の任意性も問題である。これらについては別の機会に論ずる。
[4]Direct assessment of the radiation-associated solid cancer risks at low doses in the LSS indicates a statistically significant increase with dose when analysis is restricted to survivors with dose estimates less than about 0.12 Sv. The ERR per Sv estimate over this range is 0.74 (90% CI 0.1; 1.5). There is no indication that the slope of this dose–response curve over this low-dose range differs significantly from that for the full range (P . 0.5) and no evidence for a threshold. ,(ibid., p.386)”
[5] Preston et al.. (2003)では線量についてDS86が用いられたが、Preston et al.(2007)ではDS02という修正された方法が用いられている。このため推定値については直接の比較はできない。また、被曝量の単位についても前者ではSv、後者ではGyが用いられていることに注意。Preston et al.(2004)によると、固形ガンのERR(男女平均)DS86では0.45/SvDS02では0.42/Svとされている。
[6] "The circles indicate the ERR at the mean dose in each of 22 specific dose categories. It can be seen that the linear dose response fit the data well. There was no significant linear-quadratic non-linearity in the dose response over the 0- to 2-Gy dose range (P=0.09). (Preston et al., 2007,p.10)"
[7] “There was a statistically significant dose response in the range of 0–0.15 Gy (P=0.06), and the trend in this low-dose range was consistent with that for the full dose range (P >0.5). (ibid., p.10)”
[8] “Based on fitting a series of models with thresholds at the dose cutpoints in the person-year table, the best estimate of a threshold was 0.04 Gy with an upper 90% confidence bound of about 0.085 Gy. However, this model did not fit significantly better than a linear model. (ibid., p.10)”
[9]全般的にモデルに投入したパラメータの推定値、統計検定量などが明示されていないという問題がある。
[10] 児玉和紀「原爆被爆者における低線量被ばくの影響
[11] Preston et al.(2004)も白血病の推定を行ったが、なぜかERRではなくEARモデルのみを用いている。
[12] 線量はともにDS86である。
[13] Hamaoka(2011)ではポアソン回帰だけでなく、負の二項分布、zero-inflatedモデルなどを適用した。