2020年2月7日金曜日

汚染土再利用へのパブコメ



2020/2/6 パブコメページから分割して投稿(半角カナは使えないことに注意。投稿の際は置換した)。その後、加筆訂正などしてメールにて提出。図は省略した。リンク先を参照されたい。

「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(案)」及び「環境大臣が定める者の告示(案)」に対する意見
2020/2/7
濱岡 豊
慶應義塾大学商学部
0)          パブコメの方法や法体系について
・省令での対応について
 後述するように、違反しても罰則がない。これは省令で対応することに起因すると考える[1]適切な管理をしなければ、住民への健康被害を生じる可能性のある問題であり、義務を課し、違反時の罰則も制定できる法律もしくは政令とすべきである
・資料について
資料の入手は、窓口(環境省環境再生・資源循環局環境再生事業担当参事官室)にて配付、もしくは郵送とある。ホームページで公開すべきである。

 以下、募集中[2]の標題省令などへの意見を示す。イタリックは同サイトで公開されている「除去土壌処分基準の改正に係る関係法令等の改正案の概要[3]」からの引用である。

1)汚染度について
福島県内における除染等の措置に伴い生じた除去土壌等については、「平成 二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の 事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措 置法基本方針」(平成23年11月閣議決定)において「可能な限り減容化を図るとともに、減容化の結果分離されたもの等汚染の程度が低い除去土壌について、安全性を確保しつつ、再生利用等を検討する必要がある。」
->「汚染の程度が低い」の定義がされていない。すべての前提であり、汚染の程度の低さを明示すべきである。なお、環境省廃棄物・リサイクル対策部「100Bq/kg と 8,000Bq/kg の二つの基準の違いについて[4]」 では、「100Bq/kg は「廃棄物を安全に再利用できる基準」であり、 8,000Bq/kg は「廃棄物を安全に処理するための基準」 」とある。再生利用を行うのであるから、当然、基準は100Bq/kgであることを明示すべきである


2)計画の実現性および放射性物質管理の原則
 また、平成 26 年 11 月に改正された中間貯蔵・環境安全事業株式会社法におい て「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要 な措置を講ずるものとする。」と規定されている。 中略 
県外最終処分に向けては、その最終処分必要量を低減することが重要であり、 除去土壌等に関する減容処理技術の開発、再生利用の推進等の中長期的な方針 として、平成 26 年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦 略」及び「工程表」を取りまとめ、これらに基づいて、除去土壌等の再生利用 の推進等に取り組んでいるところである。 
->「三十年以内に」と規定する理由が不明である その根拠を示し さらにその実現のための計画を明示すべきである。そもそも、放射性物質は集中管理が原則であり、それを県外に搬出することは、これまでの放射性物質の管理の体系とまったくそぐわない。 
そもそも、放射性物質を含む汚染物質であり、それを再生利用するということは 30年間での福島県外への搬出という法と反する。
 下記のようなQ&Aを想定しているが 、社会通念上、ここでいう「土壌」にはセシウムは含まれていないことを想定している それが含まれている土壌は放射性物質として扱うべきである この会社法を根本的に見直す必要がある
Q6.再生利用は実質的には最終処分になるのではないでしょうか。[5]
A6.土壌は本来貴重な資源ですので、最終処分とは区別して、再生資材の放射 能濃度の限定、覆土等の遮へい、飛散・流出の防止等の措置を講じた上で、 利用先を管理主体や責任体制が明確となっている公共事業等における人為的な形質変更が想定されない盛土材等に用途を限定し、適切な管理の下で、 再生資材を限定的に利用することを想定しています。 


3)不適切な実証実験
再生利用の取組については、福島県南相馬市及び同県飯舘村において実証事業を実施し、その安全性等について確認を行ったところであり、県外最終処分 に向けた再生利用の取組を安全かつ適正に進めるため、除去土壌の処分の基準 としての必要な規定を設けることとする。 
->南相馬での実証では「有識者検討会においても、再生利用について今回の手法において安全性を確認[6]とあるがせいぜい数年間の管理された限られた範囲での結果であり、大規模に適用すべきではない。
 上述のように今回の省令などに関しては、汚染度について明示されていないが、この実証実験においてもホームページをみる限りでは、実験に用いられた汚染土の濃度が示されていない。このような最も基本的な情報を開示しない実証実験の結果は信頼できない。
 そもそも空間線量率をみると「4月以前の除去土壌搬入・破袋開始前における測定値は、CS-134で2E-11~5E-11Bq/cm3 程度、CS-137 で5E-11~4E-10Bq/cm3 程度であった。」が、搬入後(2017/5/11-5/27)には それぞれ3.31 E-11~5.90E-11Bq/cm3 、2.8E-10~4.98E-10Bq/cmと上昇した[7]

最新の測定結果の時系列グラフをみても[8](P.1)、もっとも遠い固定点8(橙色)の空間線量は施工期間中0.04μSv/hであったが、施工後は0.06μSv/hと50%も上昇している

 施工後、盛土サイトから最も遠い固定点7、8においては空間線量率は0.06μSv/h程度だが、より近い固定点2もしくは3では0.08μSv/hと30%程度高くなっており、盛り土への再利用が空間線量率、つまり被曝量を増加させることは明らかである。


 なお、盛土上部(P.2)では0.05から0.06μSv/hとなっている。断面図をみると盛土は上部および側面共に50cmの健全土によって覆われている。盛土上部よりも離れている固定点2および3の方が線量が低いということはあり得ない。実験全体の信頼性が疑われる。
出所) ibid.

4)各論
以下、引用しつつコメントする。
2.改正等の内容 
(1)平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力 
発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案について 
中略
○ 除去土壌の再生利用は、次のように行うこと。 
 以下略

-> 汚染度の基準が明示されていない。
 国又は地方公共団体その他環境大臣が定める者とはどのような要件を満たしているのかが明示されていない。
 悪臭、騒音又は振動についての防御は記載されているが、被曝を防止することが明示されていない。これらは当然明示すべきである。

 次に掲げる事項の記録及び除去土壌の再生利用を行った位置を示す図 面を作成し、当該再生利用を行った場所の管理が終了するまでの間、保 存すること。 
 ・工事の計画及び設計に係る情報 
・再生資材化を行った除去土壌の数量及び事故由来放射性物質の濃度 ・土地の形質の変更に伴い生じる再生資材化された除去土壌の運搬及び 保管に係る計画 ・再生資材化を行った除去土壌ごとの再生利用を行った年月日 
・再生資材化を行った除去土壌を引き渡した担当者及び当該除去土壌の引渡しを受けた担当者の氏名並びに運搬車を用いて当該引渡しに係る運搬が行われた場合にあっては当該運搬車の自動車登録番号又は車両番号
・除去土壌の再生利用を行った場所の管理に当たって行った測定、点 検、検査その他の措置(規則第15条第11号の環境大臣が定める方法に より定期的に測定し、かつ、記録することを含む。) 
->実証実験では空間線量、排水中の放射性物質濃度を測定している。再利用するのであれば、当然、それを行わせるべきである。暗黙のうちに被曝量が低くなるように処理した汚染度を利用することを想定しているのであろうが、汚染度の基準も明示されていないため、測定によって確認することは必須である。

○ 除去土壌の再生利用を行うに当たっては、再生利用の用途に応じた必 要な厚さの土壌による覆いその他これに類する覆いにより除去土壌を覆 うとともに、当該必要な厚さを維持すること。
->どのように再利用されるのかが規定されていない。再利用の用途は限定すべきであり、明示すべきである。例えば2019年の台風19号による河川の堤防決壊の要因の一つは、越水により堤防が削られたことにある。堤防に再利用した場合には、当然、このような状況が生じ、放射性物質がさらに環境に放出されることとなる。
 再利用はおこなうべきではないが、万が一行う場合には、環境への再放出がおきない状況に限定し、かつ健全土による被覆ではなくコンクリートなどで完全に覆うべきである。このように施工、管理するとコストが上がるため、再利用は行うべきではないという当然の帰結となる。

○ 除去土壌の再生利用を行った場所内において除去土壌の掘削を伴う土 地の形質の変更をしようとする者は、当該土地の形質の変更に着手する 日の30日前までに、次に掲げる事項を記載した書面を環境大臣に届け出ること。 
・土地の形質の変更の施工に当たり周辺の生活環境に及ぼす影響につい て実施する調査の計画書 
・土地の形質の変更の施工に係る工事計画書 ・土地の形質の変更の施工方法を明らかにした平面図、立面図及び断面 図 
・土地の形質の変更の終了後における当該土地の利用の方法を明らかに 
した図面
->被曝量の予測値についても報告させるべき。単に届け出させるのではなく、許可制とすべきである。



 除去土壌の再生利用を行うに当たっては、再生資材化を行った除去土壌を引き渡した者及び当該除去土壌の引渡しを受けた者並びに当該除去 土壌の再生利用を行った場所を管理する者の間において、適切な役割分 担及び連携に関する事項の書面を作成し、当該再生利用を行った場所の 管理が終了するまでの間、保存すること。 
->管理はいつ終了するのかが明示されていない。汚染土壌にはセシウム以外にも微量かも知れないが核種が含まれている。それらを踏まえて充分な期間を管理させる必要がある。

○ 上記の1に規定する書類を作成したときは、速やかにその写しを環境 大臣に送付すること。 
2土壌等の除染等の措置等の委託の基準 法第40条第2項及び同第41条第2項の規定による委託の基準について、土 壌等の除染等の措置等の委託の基準として新たに処分((1)1に規定する除去土壌の再生利用に限る。以下2及び3において同じ。)を行う者を加える。
3除去土壌収集等及び除去土壌の処分を業として行うことができる者 法第48条第2項の環境省令で定める者について、新たに処分の委託を受け た者を加える。 

(2)(1)1の規定に基づき、環境大臣が定める者の告示案について

 特殊法人等(法律により直接に設立された法人若しくは特別の法律に より特別の設立行為をもって設立された法人のうち総務省設置法(平成 11年法律第91号)第4条第1項第9号の規定の適用を受けるもの、特別 の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する 
法人又は独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人をいう。)
○ 国又は地方公共団体の出資又は拠出に係る法人


->全体的に違反した場合の罰則がなく、施工、管理もいい加減に行われる可能性が高い。基準の明示、用途や施工の厳格化、測定の義務化と懲罰的罰則の導入により被曝のリスクを最低限にすべきである。


5)結語
 はじめに述べたように、省令で対応すべき問題ではない。国民的な議論を行い、それに基づいて対策を考えるべきである。

以上


[1] 「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」(国家行政組織法第十二条3項)
[7] 実証事業実施場所における放射線等の測定結果(2017.6.20)
[8] 実証事業実施場所における放射線等の測定結果 2020年1月31日 http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/recycling/pdf/measurement_result_1912.pdf