1.データ
下記の二つのデータを用いて、東京電力の需給状況をみてみる。
(1)TEPCO : でんき予報|過去の電力使用実績データ
2008年以降の365日×24時間毎の需給実績
(2)については東京を指定。24時間毎のデータも入手可能だが、指定するのが面倒なので、1日毎のデータを用いる。
ダウンロードするのが面倒なので、(1)(2)とも2009/7/1-2011/7/12の期間を分析対象とする。
2.概況
上記期間での各年の最大需要電力量(ピーク電力需要量 万kW)は下記の通り。2011年は震災、原発によって夏ではなく、2/14がピークとなっている。
2009/7/30 Thu 14:00 5450
2010/7/23 Fri 14:00 5999
2011/2/14 Mon 17:00 5150 参考)2011/7/11 Mon 14:00 4594
・需要量の多い時間帯
右の図をみるとわかるように、夏期では10-18時ごろにピークがある。
2011/2/14という冬期においては、真昼ではなく、8時、18時ごろにピークがある。
2010年7月と比べて2011年7月はピーク部分が1500万kw程度減少。朝晩も300万kw程度減少している。
各日について、最高気温と最高需要電力量をプロット。年によって色分けした。各年とも20度を境にしたV字カーブ。夏は冷房、冬は暖房用に電力が消費されていることが推察できる。
→暖房に電気を用いるのは無駄
原発では発生した熱の4割程度しか電気に変換できない。つまり、6割の熱は捨てている。送電によるロスもある。火力発電所でも65%程度の効率。熱と電気の供給を組み合わせたコジェネなどを推進すべき。
図 最高気温と最高需給電力量
3.夏期の電力需要量の推定
上記のように夏と冬では電力の消費パターンが異なるので、2009,10,11年の5月から10月のデータを用いて、各日の最大需要電力を説明するモデルを推定する。
前述のように電力量は1時間毎の値が得られているが、気象データについては1日の平均、最高などしか入手していない。このため、各日の最大電力を従属変数とする。現在、供給量が十分かが問題なので、ピーク電力量の規定要因を分析することには重要な意味がある。
・各種の要因が作用すると考えられるが、入手もしくは予想値を設定しやすい変数を用いることとする。
気象データ 最高気温、湿度、風速、降雨量
暦データ 年、月、曜日 2011/3/11後 ダミー変数
・結果
モデルのあてはまりは、修正R2=0.876と単純なモデルにしては良好。残差の大きいものでは564万kwがあったが、これは気温が低いため暖房が増加した10月の日付。ここでは、夏を考えているので、これは無視。モデルや変数の定義を行えば、通年データでも推定できるはずだが、とりあえずこの結果で。
下が推定結果。統計的に0でない係数には*がついている。
最高気温が1度上がると電力需要量は90.75万kW増加する。
湿度が1%上昇すると9.60万kW増加。風や降雨量は関係ない。
3/11の震災以降平均して電力需要は228万kW減少している。
5月を基準とすると、7-9月は需要量が増加。特に8月は314万kW増加。
日曜を基準にすると、平日は需要量が増加。特に火曜は492万kW増加。
時間帯では14時が+236。
表 最大需要電力量についての回帰分析の結果
推定値スイテイチ | t値アタイ | 有意水準ユウイスイジュン | ||
切片セッペン | 466.69 | 2.24 | ** | |
気象キショウ | 最高気温サイコウキオン | 90.75 | 14.76 | *** |
湿度シツド | 9.60 | 4.71 | *** | |
最大風速サイダイフウソク | -13.91 | -1.27 | ||
降雨量コウウリョウ | -0.93 | -0.70 | ||
暦コヨミ | 3/11以後イゴダミー | -228.42 | -4.15 | *** |
2010年ネンダミー | 311.44 | 7.45 | *** | |
6月ガツ | -93.48 | -1.57 | ||
7月ガツ | 223.19 | 2.89 | *** | |
8月ガツ | 314.15 | 3.74 | *** | |
9月ガツ | 156.41 | 2.06 | ** | |
月曜ゲツヨウ | 437.64 | 6.38 | *** | |
火曜カヨウ | 492.88 | 7.01 | *** | |
水曜スイヨウ | 470.75 | 6.68 | *** | |
木曜モクヨウ | 484.87 | 6.86 | *** | |
金曜キンヨウ | 450.63 | 6.21 | *** | |
土曜ドヨウ | 53.59 | 0.88 | ||
10時ジ | 89.74 | 0.54 | ||
11時ジ | 181.85 | 2.64 | *** | |
12時ジ | -367.03 | -1.34 | ||
13時ジ | 59.36 | 0.62 | ||
14時ジ | 236.87 | 3.78 | *** | |
16時ジ | 120.14 | 1.48 | ||
17時ジ | 47.83 | 0.35 | ||
18時ジ | 76.60 | 1.18 |
注)2009,10,11年の5月から9月の日次データ。N= 293。
Multiple R-squared: 0.885, Adjusted R-squared: 0.876
エクセルからペーストしたらふりがなもつけられてしまった。
・グラフにしてみたのが下の図。
推定に用いた5-9月の部分のみ示されている。
黒、赤はそれぞれ電力需要量の実績値と内挿値。青は最高気温×150。
気温と電力需要量は相似形であること、実測値と内挿値はよく似ていることがわかる。
図 電力需要量の実績値、内挿値、最高気温
・このモデルからの最大需要量の予測
このデータでの最高気温37.2度。最高湿度 88%。需要が最も大きくなる8月の火曜14時を想定して、上の推定式を用いると5494万kW。
95%信頼区間は[5414,5574]
東電の設備については こちらにまとめた。
最近の報道では 東電、7月末供給力を5680万キロワットに上方修正 | Reuters 記事によると8月末でも5560万kWとのことなので、このままの節電、経済水準を維持し、とてつもない高気温にならない限り不足することはないだろう。
東電で現在稼働中の原発は柏崎刈羽原子力発電所/の1,5,6,7号(計500万kW)。ちょっと頑張ればすぐに止めてもok。今後、定期点検で停止しても問題はないだろう。
4.結論
ピーク時は夏場の1日あたり数時間×数日。それにあわせて原子力発電を増強するのではなく、ピークカットのための太陽光発電などと併用すると効果的だろう。
現在のような遠隔地に巨大発電所を設置、電気を遠距離送電。熱は捨てるという方式は無駄が多い。コジェネなどで熱と電気の供給を行い資源を有効活用。
節電などのおかげで、東電関内では電力が不足することはないだろう。
5. 課題など
・モデルのあてはまりの改善。
時系列構造の導入(暑い日が連続すると、、、、)など。
・時刻ごとの推定。
・東京以外の気象データの利用。
・部門別の推定(データがあれば。本当に産業の空洞化が懸念されるのか?)
6.追記
節電による産業への影響が喧伝されるが、7/29に発表された経産省の商業販売額は前年同月比+2.9%、鉱工業指数(生産)は -1.6%程度。産業別に細かく見ると自動車などは落ち込みがあるが、全体で見るとさほどではないようである。(節電による産業空洞化?)
7.追記2
訂正)この夏の最大電力は8/18(木)14-15時の4922万kW http://bit.ly/oqgWtu 私の予測は5494万kW。 予測よりも10%以上節電したということ。冬はそもそも夏より1500万kW低いので余裕でok。
7.追記2
訂正)この夏の最大電力は8/18(木)14-15時の4922万kW http://bit.ly/oqgWtu 私の予測は5494万kW。 予測よりも10%以上節電したということ。冬はそもそも夏より1500万kW低いので余裕でok。