2020年9月27日日曜日

COVID-19 対策の諸問題(1) 日本の特異性

『科学』 2020年10月号

濱岡 豊「COVID-19 対策の諸問題(1) 日本の特異性」

サポートページ


・白黒で掲載された図をカラーで掲載しています。クリックで拡大されます。原稿作成時時点でのデータです(2020年8月末頃)。

注)縦軸、横軸とも常用対数目盛であることに注意。ラベルが赤は、本文中で今後言及する国。220ヵ国の国名を示すと煩雑になるので、このサイトで検査データが公開されている90ヵ国についてのみラベルを示した。
出所)Our world in dataの公開データより作成。
図1  累積陽性者数と累積死亡者数


注)縦軸、横軸とも常用対数目盛であることに注意。ラベルが赤は、本文中で今後言及する国。検査データが公開されているのは90ヵ国。
出所)図表1参照。ただし日本の検査データは厚労省ページより入力した。
図 2 人口あたりの累積検査人数と陽性率




注)青:検査数、赤:陽性数、黒:死亡数(いずれも「人」)。緑:陽性率(%)。縦軸は常用対数目盛。

 国名の下の数字は人口。日本の検査数は累積のみが公開されているので、差分をとって1日あたりを算出。

 各図の下部の数字の上段は累積検査人数/累積陽性者数/累積死亡者数/累積陽性率。

上段は1日あたりの検査人数/陽性者数/死亡者数/陽性率の最大値。 

データの出所は図2参照。
図3  8ヵ国の1日あたりの検査数、陽性者数、死亡者数、陽性率のトレンド




注) グラフに収めるために、検査人数については1/10倍、モビリティについては1/5倍した。前者で1000とあれば10000人に検査したことを意味し(左側の目盛り)、後者で-10とあれば-50%変化したこと(右側の目盛り)を意味する。
凡例の( )内は日次データでの最大値。 ただしモビリティについては最小値。
出所)検査人数、(報告日ベースの)陽性者数は厚労省のホームページ。厚労省は累積数を公開しているので、差分を日次データとした。
Apple Mobility Reports. https://www.apple.com/covid19/mobility
図4 日本におけるCOVID-19関連の時系列データとイベント



・関連の主要イベント、政策
1月15日 国内で1例目の患者確認
2月3日 ダイヤモンド・プリンセス号、横浜帰港。
2月28日-3月19日 北海道 緊急事態宣言
3月2日 全国小中高への休校要請 (発表は2月27日)
3月10日 新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律案国会提出。3月14日より施行。
3月24日 JOCオリンピック延期発表
4月7日 緊急事態措置(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県)
4月16日 同 全都道府県(5/6まで)
5月4日 延長 5月 31 日まで全都道府県
5月14日 北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県以外解除
5月21日 京都府、大阪府、兵庫県解除
5月25日 緊急事態か終了宣言
6月1日 一都三県、北海道と他県との移動自粛要請
6月19日 移動自粛要請解除
7月22日 Go To トラベルキャンペーン開始



脚注
(脚注番号は入っていませんが概ね本文の登場順に並んでいます)

[1] WHO “SITUATION REPORT – 1” https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200121-sitrep-1-2019-ncov.pdf?sfvrsn=20a99c10_4 (以下、日付がないものは2020年8月15日アクセス)

[1] WHO “Situation Report – 209“ https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200816-covid-19-sitrep-209.pdf?sfvrsn=5dde1ca2_2

[1] https://raw.githubusercontent.com/owid/covid-19-data/master/public/data/owid-covid-data.csv

なお、日本の検査データについては欠損値が多いため厚労省のページから取得した。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html

[1] 感染者の一部が検査によって陽性者として見いだされる。以下、検査によって見いだされた者を「陽性者」、そのうち厚労省のデータについては「患者」、モデルや概念におけるこれらを包含するすべてを「感染者」と呼ぶ。

[1] 縦横軸とも常用対数を取っているので、log10(死亡者数)=βlog10(陽性者数)という関係があることになる。

[1] 例えば2020年3月16日WHO事務総長Tedros氏は” But we have not seen an urgent enough escalation in testing, isolation and contact tracing – which is the backbone of the response.”” Once again, our key message is: test, test, test.”と述べた。 https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---16-march-2020

 

[1] スエーデン、ドイツ、中国なども興味深いが、このサイトでは日次の検査データが公開されていない。

[1] 安倍総理の春節祝賀ビデオメッセージ https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg18405.html

[1] WHOの事務総長の3月2日の会見

” The epidemics in the Republic of Korea, Italy, Iran and Japan are our greatest concern.”

 https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---2-march-2020

[1] WHOの事務総長3月18日の会見。

”A month ago, the Republic of Korea was faced with accelerating community transmission. But it didn’t surrender.

It educated, empowered and engaged communities; 

It developed an innovative testing strategy and expanded lab capacity; 

It rationed the use of masks;

It did exhaustive contact tracing and testing in selected areas; 

And it isolated suspected cases in designated facilities rather than hospitals or at home.

As a result, cases have been declining for weeks. At the peak there were more than 800 cases, and today the report was only 90 cases.

WHO is working in solidarity with other countries with community transmission to apply the lessons learned in Korea and elsewhere, and adapt them to the local context.”

https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---18-march-2020

[1] WHOの事務総長3月18日の会見。

”A month ago, the Republic of Korea was faced with accelerating community transmission. But it didn’t surrender.

It educated, empowered and engaged communities; 

It developed an innovative testing strategy and expanded lab capacity; 

It rationed the use of masks;

It did exhaustive contact tracing and testing in selected areas; 

And it isolated suspected cases in designated facilities rather than hospitals or at home.

As a result, cases have been declining for weeks. At the peak there were more than 800 cases, and today the report was only 90 cases.

WHO is working in solidarity with other countries with community transmission to apply the lessons learned in Korea and elsewhere, and adapt them to the local context.”

https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---18-march-2020

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h_0525.pdf

[1] 影響を与えたと表現したが、実際は政府の意を汲んだ提言をしていた可能性もある。ただし、「新型コロナウイルス感染症対策本」「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」とも、議事概要しか作成されていないので検証することもできない。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/taisaku_honbu.html

[1] Appleはdriving、transit、walking、Googleはgrocery_and_pharmacy、parks、transit、workplaces、residentialについて集計している。目視したところ「乗り換え(駅) transit」がともに緊急事態宣言中に最も大きく低下するので、これを用いた。なお、Googleはベースラインからの変化率のデータだが、Appleはベースラインを100%とした移動度を提供しているので、100を差し引いて変化率とした。

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kinkyutaiou_gaiyou_corona.pdf

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihonhousin.pdf

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h(4.7).pdf

[1] https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_0525.pdf

[1]ただし、37.5度の熱があっても4日間は自宅で待機のように制約していた。




参考文献

Ariadne-Labs (2020), "Emerging Covid-19 Success Story: South Korea Learned the Lessons of Mers," Our World in Data https://ourworldindata.org/covid-exemplar-south-koreaaccessed 2020/8/20.

 

Bonita, R., R. Beaglehole, and T. Kjellström (2006), Basic Epidemiology 2nd Edition.: 木原雅子、木原正博監訳『WHOの標準疫学』三煌社, 2008年http://whqlibdoc.who.int/publications/2006/9241547073_jpn.pdf.

 

Furuse, Yuki, Sando Eiichiro, Tsuchiya Naho, Miyahara Reiko, Yasuda Ikkoh, K. Ko Yura, Saito Mayuko, Morimoto Konosuke, Imamura Takeaki, Shobugawa Yugo, Nagata Shohei, Jindai Kazuaki, Imamura Tadatsugu, Sunagawa Tomimasa, Suzuki Motoi, Nishiura Hiroshi, and Oshitani Hitoshi (2020), "Clusters of Coronavirus Disease in Communities, Japan, January–April 2020," Emerging Infectious Disease journal, 26 (9).

 

Linton, N. M., T. Kobayashi, Y. Yang, K. Hayashi, A. R. Akhmetzhanov, S. M. Jung, B. Yuan, R. Kinoshita, and H. Nishiura (2020), "Incubation Period and Other Epidemiological Characteristics of 2019 Novel Coronavirus Infections with Right Truncation: A Statistical Analysis of Publicly Available Case Data," J Clin Med, 9 (2).

 

Pollack, Todd and et al. (2020), "Emerging Covid-19 Success Story: Vietnam’s Commitment to Containment," Our World in Data https://ourworldindata.org/covid-exemplar-vietnam accessed 2020/8/20.

 

Shimizu, K., G. Wharton, H. Sakamoto, and E. Mossialos (2020), "Resurgence of Covid-19 in Japan," BMJ, 370, m3221.

 

WHO (2020), The Report of the Who China Joint Mission on Covid-19 Final Report: WHO https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf accessed 2020/02/29.

 

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020a), "新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(2020 年 3 月 19 日)," https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf accessed 2020/08/22.

 

---- (2020b), "新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(2020 年 4 月 1 日)," https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf 2020/08/22.

 

尾内隆之 and 調麻佐志 (2020), "新型コロナウイルス感染症対策における科学と政治," 科学, 90 (6), 489-507.

 

錢瓊毓 (2020), "台湾におけるcovid-19対応," 日本医師会 COVID-19有識者会議 https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3103 2020/8/20 アクセス.

 




2020年7月31日金曜日

福島第一原発からの汚染水(多核種除去設備等処理水)の取扱いに関する意見


パブコメ 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集に投稿した内容。

半角カナは受け付けられないので、すべてを全角に変換して投稿した。


福島第一原発からの汚染水(多核種除去設備等処理水)の取扱いに関する意見

 

2020/7/31

濱岡 豊

hamaoka@fbc.keio.ac.jp

1.総論

 以下の理由により「海洋放出案は不適切であり、タンクの設置による長期管理が現実的である。」

 以下、その理由をコメントする。括弧内のページは多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(2020)の該当ページである。

2.各論

1)現実的な期間の設定

 議論の前提として、「冷温停止を達成した2011 年12 月から30 年~40 年で廃止措置を完了することを目標としており(p.12)」「中間貯蔵開始後30 年以内に、福島県外での最終処分を完了するための必要な措置を講ずることを前提(p.12)」にみられるように、40年間を目標としている。しかし、東京電力は福島第二原子力発電所の廃止ですら1基あたり30年間かかると想定している[1]。

 原発災害から約10年経過したが、溶融燃料の取り出し、保管方法など技術的、社会的に未解決であり、40年間で解決できる可能性は皆無である。チェルノブイリでは100年間は閉じ込めるNew Safe Confinementを構築した。福島原発についても100年レベルを想定した実現性のある計画に見直すべきである。

 「こうした状況に鑑みれば、タンク保管の継続については、設置効率を高めてきた標準タンクを用いて、敷地の中で行っていくほかなく、現行計画以上のタンク増設の余地は限定的であると言わざるを得ない(p.13)」のように、タンクの増設が不可能ともされているが、仮に100年間を想定した場合、原発周辺の土地利用については、国等による購入もしくは長期借り上などが現実的となり、土地利用の自由度も高くなる。 40年間という無責任な目標に基づく性急な議論ではなく、現実的で責任のある議論を行うべきである。

2)前提としての放射性物質と量、コストの確定

 「ALPS はトリチウム以外の 62 種類の放射性物質を告示濃度未満まで浄化する能力を有しているが(p.3)」とあるが、62種類では14Cなど重要な核種が無視されている[2]。ロンドン条約に関しては295核種について検討された[3]。

 さらに、汚染水処理後も濃度基準を超える処理水が保管されているが、それらの試験的な再処理を9月から行うことが7月30日になって発表された。残留する放射性物質の種類、量を確定させなければ、それの保管、排出、費用を議論できるはずもない。

 

3)放射性物質排出の総量管理:事故前以前のレベルに抑制すべき。

 「トリチウムは、原子力発電所を運転することに伴い国内外の原子力発電所でも発生している(p.15)。」のように、他の原発などからの放出量が多いことを言い訳にしているが論外である。福島第一原子力発電所の事故前の放射性液体廃棄物の放出実績をみるとCs、Co、Iなどは検出されず、3H のみで5.9×109Bqであった(平成22年度 第1四半期)。年間放出管理目標値についても3H のみ設定されており2.2×1013 Bqであった[4]。

 福島原発事故によって主要な放射性物質だけでも133Xe:11000 PBq、131I:160 PBq、 134Cs:18 PBq、137Cs:15PBq などが放出された[5]。P(ペタ)は10の15乗であり、ここで議論している兆=10の12乗の1000倍である。それだけの環境負荷を与えただけでなく、その後も福島原発からは年間5億Bq程度が放出されている[6]。

 「なお、水蒸気放出に係るトリチウムの放出管理の基準値は定められていなかった。また、福島第一原発事故後、2012 年11 月に、福島第一原発が特定原子力施設に指定され、1 号機から4号機の放出管理目標値や放出管理の基準値は定められていない。(p.19)」とあるが、基準を設定しこれら含めて総量管理すべきである。

 福島原発からはトリチウム以外に多くの核種が放出されているのであり、トリチウムの年間排出量は、事故前の年間排出量よりも低い水準に保つべきである。それを上限とすると、長期間かけた海洋放出は非現実的である。

4)風評ではなく実害と捉えるべき

 「風評被害は、安全が関わる社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道され、本来 『安全』とされる食品・商品・土地・企業を人々が危険視し、消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害であると考えられ、放射線の影響による直接の「事実上の損害」とは 区別して考えられる。(p.29)」とりているが、その例として、「日本各地で放射性降下物が確認され」た1954 年の第五福竜丸被爆事件を挙げており、風評被害を誤った解釈している。放射性降下物が確認されたのであるから、健康などへの影響という実害を心配するのは当然である。これを風評として扱うこと自体が根本的な誤りである。

 なお、各案の比較に、風評対策の費用が含まれていない。「風評払拭・リスクコミュニケーションの強化 」のため、R2年度だけでも、福島県農林水産業再生総合事業として47億円、観光復興関連事業38億円が要求されている。海洋放出するとこれらの費用が増大することは確実であり、それを考慮したコスト評価をすべきである[7]。

 

5)選択肢の公正な比較の必要性:長期タンク保存の優位性

「表5.各処分方法の社会的影響の特徴(p.24)」では、地層注入・地下埋設を同一視しているが、前者は液体そのまま、地下埋設はタンクを埋設する。後者については「地下からの漏えいによる汚染が懸念される」可能性は極めて低い。

 例えばJOGMECのページを漏洩で検索しても、石油備蓄タンクからの石油の漏洩に関するものはない[8]。特に苫小牧東部国家石油備蓄基地は、2018年北海道胆振東部地震によるタンクへの被害は報告されていない。

 さらに「地下埋設については、固化による発熱があるため、水分の蒸発(トリチウムの水蒸気放出)を伴うほか、新たな規制の設定が必要となる可能性があり、処分場の確保が課題となる(p.25)」。とあるが、固化による発熱が問題となるのであれば、石油備蓄タンクの方がよほど危険なはずである。また、新たなにどのような規制が生じるのかも不明確である。

 これらの石油備蓄基地規模のタンクに長期保管する技術は確立しており、タンクに保管するという原子力市民委員会の提案[9]には高い合理性がある。

 「こうした社会的な影響については、心理的な消費行動等によるところが大きいことから、その影響量について、一定の仮定のもとに見積もることはできるものの、総合的に大小を比較することは難しいと考えられる。(p.25)」とあるが、この程度の影響はCVMなどで一定の精度で評価できる。影響をうける人数を考慮すれば、全世界に影響が広がる海洋、大気が最も影響が大きく、タンク内長期保管がもっとも小さいことは自明である。

 

6)漁業者や市民の意見の反映

 「135 名の方から意見をお伺いした。意見としては、主に、タンクに保管されているALPS処理水の安全性についての不安、風評被害が懸念されるため海洋放出に反対など、ALPS処理水の処分に関して、様々な懸念点をいただいた。(p.8)」とあるが、135名のほとんどが海洋放出に反対であった[10]。

 一方で、2020年4月以降、多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場 として、5回を開催したが、どのようにしてこれら参加者を選んだのかが不明である。海洋は日本の国内、世界につながっている。経産省の選んだ特定の者ではなく、市民、世界からも広く母意見をきくべきである。なお、5限られた出席者の中でも漁業者は明確に反対している。漁業者や市民の意見を無視すべきではない。

7)海洋放出の問題点

 海洋放出には社会的影響が大きいだけでなく、小委員会報告でも「水蒸気放出では、ALPS 処理水に含 まれるいくつかの核種は放出されず乾固して残ることが予想され、環境に放出する核種を減らせるが、残渣が放射性廃棄物となり残ることにも留意が必要である(p.25)。」 とある。このように問題となる「ALPS 処理水に含まれるいくつかの核種」を海洋に放出することは不適切である。

8)放射線被ばくに関する知識のupdate不足

「(放射線の生体影響)確率的影響は線量の増大につれて発生確率が増すが、100mSv を下回ると統計的に有意な増加は見られなくなる(自然発生頻度の変動の範囲内となる)。(p.16)」とあるが、古く不適切な知見に基づく記述である。平均被曝量100mSv以下を分析対象として、有意な係数が得られている論文は多くある(例えば、Richardson et al.(2015)、 Leuraud et al.(2015)。NCRPの最近のレポートでもこのことを認めている。“Most of the larger, stronger studies broadly supported an LNT model. Furthermore, the preponderance of study subjects had cumulative doses <100 mGy (NCRP 2018,p.6)”。

 健康影響は極めて重大な問題であり、最新の知見に基づいて議論すべきである。

 

3.おわりに

 「海洋放出案は不適切であり、長期的に保管するタンクの設置による長期管理が現実的である。」ことを繰り返しておく。

 

参考文献

 

Leuraud et al. (2015), "Ionising Radiation and Risk of Death from Leukaemia and Lymphoma in Radiation-Monitored Workers (Inworks): An International Cohort Study," The Lancet Haematology, 2 (7), e276–e81.

 

Richardson et al. (2015), "Risk of Cancer from Occupational Exposure to Ionising Radiation: Retrospective Cohort Study of Workers in France, the United Kingdom, and the United States (Inworks)," Bmj, 351, h5359.

 

吉川肇子 (2018), "社会の危機に備える : 「想定」「記録」「警戒」," 科学, 88 (10), 980-86.

 

多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 (2020), "多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書," 

 

 



[1] 「他の廃炉プラントと同様、廃炉工程は1基あたり30年程度を見込んでいますが、福 島第一の廃炉と並行することを踏まえ、人的リソース配分等に十分配慮していく必 要があるため、全 4 基の廃炉を終えるには 40 年を超える期間が必要な見通しです。 」

https://www.tepco.co.jp/press/release/2019/pdf3/190731j0101.pdf

[2]あべともこ事務所「ALPS処理水の濃度に考慮されていない核種があることに関する質問主意書」http://www.abetomoko.jp/data/archives/234

[3] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/004/004/attach/1267061.htm

[4]福島第一原子力発電所 放射性廃棄物管理状況(平成22年度 第1四半期) 放射性液体廃棄物の放出量  3H: 2.2×109 Bq

https://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/data_lib/pdfdata/bpe22a-j.pdf

[5] https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-02-05.html

  • [6]NHK 「福島第一原発 放射性物質の放出量が前年比2倍に」2019年

「去年1月までの1年間の放出量は4億7100万ベクレルほどだったのに対し、ことし1月までの1年間の放出量は9億3300万ベクレルほど」https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/15071.html

[7] GAP認証の取得、海外を含む農林水産物の販路拡 大と需要の喚起など、生産から流通・販売に至るまで、 風評払拭を総合的に支援 (農林水産省、R2要求額:47億円) 。被災地の風評を払拭し、東北の観光 復興を実現するため、 (復興庁、国土交通省、R2要求額:38億円) 。

https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat8/sub-cat8-3/190830gaisanyoukyusanko.pdf

[8]事業所におけるボイラ給水施設の塩酸タンクからの塩酸漏洩はあるが、石油備蓄タンクに関する漏洩ではない。http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_06_000078.html

[9] 原子力市民委員会 原子力規制部会

「ALPS 処理水取扱いへの見解」http://www.ccnejapan.com/?p=10445

[10]書面で提出頂いたご意見  https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/shomen_iken__.pdf

2020年2月7日金曜日

汚染土再利用へのパブコメ



2020/2/6 パブコメページから分割して投稿(半角カナは使えないことに注意。投稿の際は置換した)。その後、加筆訂正などしてメールにて提出。図は省略した。リンク先を参照されたい。

「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(案)」及び「環境大臣が定める者の告示(案)」に対する意見
2020/2/7
濱岡 豊
慶應義塾大学商学部
0)          パブコメの方法や法体系について
・省令での対応について
 後述するように、違反しても罰則がない。これは省令で対応することに起因すると考える[1]。適切な管理をしなければ、住民への健康被害を生じる可能性のある問題であり、義務を課し、違反時の罰則も制定できる法律もしくは政令とすべきである。
・資料について
資料の入手は、窓口(環境省環境再生・資源循環局環境再生事業担当参事官室)にて配付、もしくは郵送とある。ホームページで公開すべきである。

 以下、募集中[2]の標題省令などへの意見を示す。イタリックは同サイトで公開されている「除去土壌処分基準の改正に係る関係法令等の改正案の概要[3]」からの引用である。

1)汚染度について
福島県内における除染等の措置に伴い生じた除去土壌等については、「平成 二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の 事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措 置法基本方針」(平成23年11月閣議決定)において「可能な限り減容化を図るとともに、減容化の結果分離されたもの等汚染の程度が低い除去土壌について、安全性を確保しつつ、再生利用等を検討する必要がある。」
->「汚染の程度が低い」の定義がされていない。すべての前提であり、汚染の程度の低さを明示すべきである。なお、環境省廃棄物・リサイクル対策部「100Bq/kg と 8,000Bq/kg の二つの基準の違いについて[4]」 では、「100Bq/kg は「廃棄物を安全に再利用できる基準」であり、 8,000Bq/kg は「廃棄物を安全に処理するための基準」 」とある。再生利用を行うのであるから、当然、基準は100Bq/kgであることを明示すべきである


2)計画の実現性および放射性物質管理の原則
 また、平成 26 年 11 月に改正された中間貯蔵・環境安全事業株式会社法におい て「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要 な措置を講ずるものとする。」と規定されている。 中略 
県外最終処分に向けては、その最終処分必要量を低減することが重要であり、 除去土壌等に関する減容処理技術の開発、再生利用の推進等の中長期的な方針 として、平成 26 年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦 略」及び「工程表」を取りまとめ、これらに基づいて、除去土壌等の再生利用 の推進等に取り組んでいるところである。 
->「三十年以内に」と規定する理由が不明である その根拠を示し さらにその実現のための計画を明示すべきである。そもそも、放射性物質は集中管理が原則であり、それを県外に搬出することは、これまでの放射性物質の管理の体系とまったくそぐわない。 
そもそも、放射性物質を含む汚染物質であり、それを再生利用するということは 30年間での福島県外への搬出という法と反する。
 下記のようなQ&Aを想定しているが 、社会通念上、ここでいう「土壌」にはセシウムは含まれていないことを想定している それが含まれている土壌は放射性物質として扱うべきである この会社法を根本的に見直す必要がある
Q6.再生利用は実質的には最終処分になるのではないでしょうか。[5]
A6.土壌は本来貴重な資源ですので、最終処分とは区別して、再生資材の放射 能濃度の限定、覆土等の遮へい、飛散・流出の防止等の措置を講じた上で、 利用先を管理主体や責任体制が明確となっている公共事業等における人為的な形質変更が想定されない盛土材等に用途を限定し、適切な管理の下で、 再生資材を限定的に利用することを想定しています。 


3)不適切な実証実験
再生利用の取組については、福島県南相馬市及び同県飯舘村において実証事業を実施し、その安全性等について確認を行ったところであり、県外最終処分 に向けた再生利用の取組を安全かつ適正に進めるため、除去土壌の処分の基準 としての必要な規定を設けることとする。 
->南相馬での実証では「有識者検討会においても、再生利用について今回の手法において安全性を確認」[6]とあるがせいぜい数年間の管理された限られた範囲での結果であり、大規模に適用すべきではない。
 上述のように今回の省令などに関しては、汚染度について明示されていないが、この実証実験においてもホームページをみる限りでは、実験に用いられた汚染土の濃度が示されていない。このような最も基本的な情報を開示しない実証実験の結果は信頼できない。
 そもそも空間線量率をみると「4月以前の除去土壌搬入・破袋開始前における測定値は、CS-134で2E-11~5E-11Bq/cm3 程度、CS-137 で5E-11~4E-10Bq/cm3 程度であった。」が、搬入後(2017/5/11-5/27)には それぞれ3.31 E-11~5.90E-11Bq/cm3 、2.8E-10~4.98E-10Bq/cm3と上昇した[7]。

最新の測定結果の時系列グラフをみても[8](P.1)、もっとも遠い固定点8(橙色)の空間線量は施工期間中0.04μSv/hであったが、施工後は0.06μSv/hと50%も上昇している

 施工後、盛土サイトから最も遠い固定点7、8においては空間線量率は0.06μSv/h程度だが、より近い固定点2もしくは3では0.08μSv/hと30%程度高くなっており、盛り土への再利用が空間線量率、つまり被曝量を増加させることは明らかである。


 なお、盛土上部(P.2)では0.05から0.06μSv/hとなっている。断面図をみると盛土は上部および側面共に50cmの健全土によって覆われている。盛土上部よりも離れている固定点2および3の方が線量が低いということはあり得ない。実験全体の信頼性が疑われる。
出所) ibid.

4)各論
以下、引用しつつコメントする。
2.改正等の内容 
(1)平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力 
発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案について 
中略
○ 除去土壌の再生利用は、次のように行うこと。 
 以下略

-> 汚染度の基準が明示されていない。
 国又は地方公共団体その他環境大臣が定める者とはどのような要件を満たしているのかが明示されていない。
 悪臭、騒音又は振動についての防御は記載されているが、被曝を防止することが明示されていない。これらは当然明示すべきである。

○ 次に掲げる事項の記録及び除去土壌の再生利用を行った位置を示す図 面を作成し、当該再生利用を行った場所の管理が終了するまでの間、保 存すること。 
 ・工事の計画及び設計に係る情報 
・再生資材化を行った除去土壌の数量及び事故由来放射性物質の濃度 ・土地の形質の変更に伴い生じる再生資材化された除去土壌の運搬及び 保管に係る計画 ・再生資材化を行った除去土壌ごとの再生利用を行った年月日 
・再生資材化を行った除去土壌を引き渡した担当者及び当該除去土壌の引渡しを受けた担当者の氏名並びに運搬車を用いて当該引渡しに係る運搬が行われた場合にあっては当該運搬車の自動車登録番号又は車両番号
・除去土壌の再生利用を行った場所の管理に当たって行った測定、点 検、検査その他の措置(規則第15条第11号の環境大臣が定める方法に より定期的に測定し、かつ、記録することを含む。) 
->実証実験では空間線量、排水中の放射性物質濃度を測定している。再利用するのであれば、当然、それを行わせるべきである。暗黙のうちに被曝量が低くなるように処理した汚染度を利用することを想定しているのであろうが、汚染度の基準も明示されていないため、測定によって確認することは必須である。

○ 除去土壌の再生利用を行うに当たっては、再生利用の用途に応じた必 要な厚さの土壌による覆いその他これに類する覆いにより除去土壌を覆 うとともに、当該必要な厚さを維持すること。
->どのように再利用されるのかが規定されていない。再利用の用途は限定すべきであり、明示すべきである。例えば2019年の台風19号による河川の堤防決壊の要因の一つは、越水により堤防が削られたことにある。堤防に再利用した場合には、当然、このような状況が生じ、放射性物質がさらに環境に放出されることとなる。
 再利用はおこなうべきではないが、万が一行う場合には、環境への再放出がおきない状況に限定し、かつ健全土による被覆ではなくコンクリートなどで完全に覆うべきである。このように施工、管理するとコストが上がるため、再利用は行うべきではないという当然の帰結となる。

○ 除去土壌の再生利用を行った場所内において除去土壌の掘削を伴う土 地の形質の変更をしようとする者は、当該土地の形質の変更に着手する 日の30日前までに、次に掲げる事項を記載した書面を環境大臣に届け出ること。 
・土地の形質の変更の施工に当たり周辺の生活環境に及ぼす影響につい て実施する調査の計画書 
・土地の形質の変更の施工に係る工事計画書 ・土地の形質の変更の施工方法を明らかにした平面図、立面図及び断面 図 
・土地の形質の変更の終了後における当該土地の利用の方法を明らかに 
した図面
->被曝量の予測値についても報告させるべき。単に届け出させるのではなく、許可制とすべきである。



○ 除去土壌の再生利用を行うに当たっては、再生資材化を行った除去土壌を引き渡した者及び当該除去土壌の引渡しを受けた者並びに当該除去 土壌の再生利用を行った場所を管理する者の間において、適切な役割分 担及び連携に関する事項の書面を作成し、当該再生利用を行った場所の 管理が終了するまでの間、保存すること。 
->管理はいつ終了するのかが明示されていない。汚染土壌にはセシウム以外にも微量かも知れないが核種が含まれている。それらを踏まえて充分な期間を管理させる必要がある。

○ 上記の1に規定する書類を作成したときは、速やかにその写しを環境 大臣に送付すること。 
2土壌等の除染等の措置等の委託の基準 法第40条第2項及び同第41条第2項の規定による委託の基準について、土 壌等の除染等の措置等の委託の基準として新たに処分((1)1に規定する除去土壌の再生利用に限る。以下2及び3において同じ。)を行う者を加える。
3除去土壌収集等及び除去土壌の処分を業として行うことができる者 法第48条第2項の環境省令で定める者について、新たに処分の委託を受け た者を加える。 

(2)(1)1の規定に基づき、環境大臣が定める者の告示案について

○ 特殊法人等(法律により直接に設立された法人若しくは特別の法律に より特別の設立行為をもって設立された法人のうち総務省設置法(平成 11年法律第91号)第4条第1項第9号の規定の適用を受けるもの、特別 の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する 
法人又は独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人をいう。)
○ 国又は地方公共団体の出資又は拠出に係る法人


->全体的に違反した場合の罰則がなく、施工、管理もいい加減に行われる可能性が高い。基準の明示、用途や施工の厳格化、測定の義務化と懲罰的罰則の導入により被曝のリスクを最低限にすべきである。


5)結語
 はじめに述べたように、省令で対応すべき問題ではない。国民的な議論を行い、それに基づいて対策を考えるべきである。

以上


[1] 「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」(国家行政組織法第十二条3項)
[7] 実証事業実施場所における放射線等の測定結果(2017.6.20)
[8] 実証事業実施場所における放射線等の測定結果 2020年1月31日 http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/recycling/pdf/measurement_result_1912.pdf