2020年11月19日木曜日

 『科学』 2020年11月号

濱岡 豊「COVID-19 対策の諸問題(2) 積極的疫学調査という名の消極的な調査への批判的検討」

サポートページ

 白黒だったグラフのカラー版(といっても2色)×3枚、関連研究の表、脚注のURL、参考文献。




)確定日が早い者から遅い者に感染したと仮定して矢印の向きを定めた。番号は確定時期の早さに基づく連番であり、3人以上に感染が生じた者のみ示した(厚労省ページの旧NO)

出所) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10022.html より作成。

図3 36日確定分までのCOVID-19患者ネットワーク



図4 リンクやクラスターの追跡状況(各週の新規症例数)


)接触状況は327日以降公表された。凡例の括弧内はそれぞれの合計人数。

出所)東京都「新型コロナウイルス感染症
対策サイト
(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp)」の公開データより作成。

5 東京都におけるリンク追跡の状況





表 COVID-19関して行われたクラスターもしくは接触者調査関連研究

 

症例(一次感染者)

濃厚接触者数

(患者あたり平均人数)

クラスター

Attack Rate

Super-spreading

スイス

Danis et al.(2020)

(成人)

 

16

二次感染者1(小児)については172

 

AR=12/16=75%

-

米国

Burke et al.(2020)

226日までの、旅行関連の12名。

うち初期の10名について、計445名を特定(44.5)

 

14日間の観察期間に発症したのは2名。AR=0.45%.(95%CI:0.12%,1.6%)

濃厚接触者数の値域は1-201名。

シンガポール

Pung et al.(2020) 

36(3つのクラスター)

 

425

(11.8 )

中国からのツアー客(n=11)

企業の会議 (n=20)

教会 (n=5)

425名中2名が感染。

AR=0.47%

 

シンガポール

Wong et al.(2020) 

219日までの84

2,593

(30.9)

 

 

 

台湾

Cheng et al.(2020)

318日までの100

2,761

( 27.6)

 

2761名中22名感染

AR=0.7%(95%CI:0.4%,1.0%)

発症後5日内接触では

AR=1.0% (95%CI:0.6%,1.6%)

 

韓国

Covid-19 National Emergency Response Center et al.(2020)

韓国での初期30

2,370

 

12名が感染

AR=0.55%

2次感染が生じた者は9名。

感染が生じた相手の数は最大で3名。super-spreadingは観測されなかった。

 

韓国

Jang et al.(2020)

112(12 スポーツ施設)

830 名

( 7.4)

 

ダンス教室の生徒217人が接触。。

AR=26.3% (95%CI:20.9%,32.5%)

2次感染が生じた相手の数は0から14人まで。(同じインストラクタでも施設によって感染が生じた相手の数が異なる。)

武漢

Bi et al.(2020)

391

・うち接触者追跡調査で見いだされた者は87名。

・症状に基づくサーベイランス(空港・駅・家庭などの検疫、検査)では292名。

・不明12

1,286

( 3.3)

 

・全体AR=0.7%(95%CI:0.4%,1.0%)

・家庭内AR=6.27(95%CI: 1.49, 26.33)

・旅行中 AR=7.06%(95%CI:1.43-34.9)

 

・接触者追跡調査で見いだされた者の方が、症状に基づくサーベイランスによるものよりも無症状者の割合が高く(20% vs 3%)、重症者が少ない(3% vs 10%)

2次感染数の平均値は0.4人。ただし、80%の二次感染が8.9%の者による。

 

インド(Tamil Nadu and Andhra Pradesh)

Laxminarayan et al.(2020) 

4,206

64,031

(15.2)

Max=951

 

 

Per-contact risk of infection=9.0%(95%CI:7.5-10.5%)

AR=6.0%(95%CI:5.0-7.3%)

濃厚接触者最大は951名。200,名以上を越えるものが11名。

二次感染が生じたのは4206名中728(17.3%)

5.4% 80%の感染を引き起こした。

日本

Nishiura et al.(2020b)

226日までの110

-

11 クラスタ(定義不明)

閉鎖状況で接触した22名中16名が二次感染が生じた(72.7%)。そうでない環境では88名中11(12.5%)。オッズ比=18.7 (95%CI:6.0, 57.9).

110名中、2次感染が生じたのは27(24.6%) 

最も多い者は12名に感染が生じた。

日本

Furuse et al.(2020a)

331日までの2,175

 

国内症例1,904名のうち1,194(63%)についてリンクを追跡できた。

 

 

 

日本

Furuse et al.(2020b)

44日までの3,184

国内症例

2,875名のうち1,760(61%)についてリンクを追跡できた。

61 クラスタ(サイズ5以上、家庭内感染を除く)

 (サイズ100以上の病院クラスタを含む。

各クラスタの1次感染者が同定できたのは22のみ。

感染時に周囲にいた人数のデータがないためARは計算不可能。

 

本研究

Nishiura et al.(2020b)のデータを含む36日までの312

濃厚接触者

 調査済みは23.1%、平均9.4名、最大69

クラスタ(サイズ5以上)

二次感染者

 調査済みは55.8%、平均0.9、最大6

最大11名に感染が生じた。

(うち2/26までの166)

濃厚接触者

調査済みは39.8%、平均9.20名。

 

二次感染者

 調査済みは65.1%、平均1.0、最大4

 


脚注のリンク先

(脚注番号は入っていませんが概ね本文の登場順に並んでいます)

[1]積極的疫学調査はactive surveillance の日本語訳だと思われるが、国立感染症研究所は"active epidemiological surveillance”もしくは"active epidemiological investigation”と訳している。

https://www.niid.go.jp/niid/en/2019-ncov-e/2484-idsc/9472-2019-ncov-02-en.html

厚労省の「感染症関連日本語英語対訳表」では後者が当てられている。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/taiyakuhyou/index.html

なお、医学系の学術誌のデータベースであるpubMedでこれらをサーチすると、それぞれ31件、4件しかヒットしなかった。これに対して"active surveillance"7742件ヒットした。ただし、前立腺がんなど感染症ではない疾病にも使われている。

[1] 本来、積極的疫学調査(active surveillance)は、接触者追跡調査以外に、検体、病原体、疾病などの情報収集を含むと考えられるが、同要綱では積極的疫学調査を接触追跡調査と同義と考えているようである。実際、117日版および、最新の529日版マニュアルでも、「患者(確定例)」と「濃厚接触者」が調査対象とされ、「患者(確定例)」について「基本情報・臨床情報・推定感染源・接触者等必要な情報を収集する」とされている。

[1] マーケティングおける社会ネットワーク分析の研究例については例えば濱岡(2006)を参照されたい。

[1] 国立感染症研究所「新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に対する積極的疫学調査実施要領 (暫定版) 2020/1/17版」

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200117.pdf.

[1] その後の改訂版含めて下記のページに公開されている。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html

[1] 新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に対する積極的疫学調査実施要領 (暫定版) 2020/1/21

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200121.pdf

[1]  2020/1/17版 調査票()

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/nCoV_survey200117.xls.

[1] 同 2020/1/28版

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200128.pdf.

[1] 同 2020/2/6版 https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200206.pdf.

[1] 同 2020/2/6版 調査票() https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/nCoV_survey200206.xlsx

[1] 新型コロナウイルス感染症対策本部決定 「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」 20202 25 日 

  https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599698.pdf

[1] 新型コロナウイルスクラスター対策班の設置について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09743.html

[1] 新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に対する積極的疫学調査実施要領 (暫定版) 2020/2/27版 https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227.pdf.

[1] 同 2020/2/6版 調査票()  https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/nCoV_survey200206.xlsx

[1] 同 2020/4/20版  https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200420.pdf

[1] 420日版、529日版とも要領のpdfでは「暫定版」とされていないが、ホームページのリンクには「暫定版」と記されている。ここではpdfでの記述を優先する。

[1] WHO “Global surveillance for COVID-19 caused by human infection with COVID-19 virus: Interim guidance 20 March 2020”https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/331506/WHO-2019-nCoV-SurveillanceGuidance-2020.6-eng.pdf

[1] 積極的疫学調査実施要領における濃厚接触者の定義変更等に関するQ&A2020422日)

 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9582-2019-ncov-02-qa.html

[1] 新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領 2020/5/29

 https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200529.pdf.

 

[1] 筆者が見つけることができたのは129日づけのバージョン1.1である。

[1] The working definition for “close contact (or high risk exposure)” was being within 2 meters of a COVID-19 名) and “daily contact (or low risk exposure)” was defined as having proximity with a person who was a confirmed COVID-19 名), without having had close contact. The classification was then repealed and was integrated into “contact (regardless of level of exposure).”

[1] 国立感染症研究所 (2020), "新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:Ncov)に対する積極的疫学調査実施要領 (暫定版) 2020/4/20版 調査票()."

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/nCoV_survey2004020.xlsx

[1] 平成 28 年社会生活基本調査― 生活時間に関する結果 ―結果の概要http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/pdf/gaiyou2.pdf

[1] この論文の初版は226日までのデータを用いていると述べているが、前述のように225日には政府の新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が決定され、クラスター対策班が設置された。厚労省は31日づけの「新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために」で下記のように述べている。

「これまでに国内感染が明らかなった方のうち8割の方は、他の人に感染させていません。一方、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなどでは、一人の感染者が複数に感染 複数に感染させた事例が報告されています。」

この記述はNishiura et al.(2020b)で述べられている内容である。さらに、次のようにその後、3密と名付けられる特徴も指摘している。

「このように、 集団感染の共通点は特に、『換気が悪く』、『人が密に集まって過ごすような空間』、『不特定多数の人が接触するおそれが高い場所』です。」

[1] 東北大学・田中重人氏の下記以降のツイートおよびやりとり参照。

https://twitter.com/twremcat/status/1244265219762712578

[1]ローマ大学谷本氏のツイート https://twitter.com/yoh_tanimoto/status/1246799765247066114

新型コロナクラスター対策専門家が誤りを訂正したツイート。

https://twitter.com/ClusterJapan/status/1247092596830138373

[1] 著者の西浦氏が誤りを認めたツイート。 https://twitter.com/nishiurah/status/1244855374156423168

[1] 統計ソフトRglmでポアソン分布をあてはめ、それをlibrary(AER)dispersiontestコマンドで検定した。

[1] ヒストグラムのビンの中央値を用いて算出。ただし上端は100人とした。7.5*40+15*15+25*2+100*4=975名。

[1] 新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年3月6日版)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10022.html

国内事例としては302例までリストされているが、148例目は8例目と同一人物とあるので、148例目を除外し301例となった。

[1] 厚労省はこれらと、その後行われるようになった空港検疫をあわせて国内事例としてカウントしている。

[1] 2つの論文とも下記のように引用している。

“https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html (accessed on 26 February 2020)”

[1] 新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月26日版)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09770.html

[1] 同 (令和2年2月28日版)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09849.html

[1] 同 (令和2年2月25日版)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09747.html

[1] 国内の状況について(22312時時点版)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09724.html

[1]調査会社の登録者へのアンケートを実施し、日本の年齢層別人口で調整したようである。

[1] ここで紹介する感染症分野での研究では日本の接触者の数は他の国と同様であるとされているが、社会(心理)学での知見とは食い違う気もする。例えば世界50ヵ国を対象とした世界価値観調査(5)では、「親や家族」「友人」「同業者」「スポーツクラブやボランティアの仲間」と一緒に過ごすに対して「毎週/ほぼ毎週」と回答した者の割合は調査対象国の中でいずれも最低水準である電通総研 and 日本リサーチセンター編(2004)。この調査は、その後も行われているが、この項目はその後削除された。

 International Social Survey Programme (ISSP)2017年調査では、典型的な「平日」「休日」それぞれについて何人と接触するかが質問されている。日本は調査対象30ヵ国中で家族や友人との接触は最下位、集団への参加は27位と低くなっているHadler, Gundl and Vrečar(2020)

Putnam, Leonardi and Nonetti(1992)の「社会関係資本」以降、それを測定するための指標の一つとして友人の数、参加している集団、さらには信頼などが注目されてきた。筆者も映画をみたことがある20代のインターネットユーザーを対象に日米中で「映画について話をする」「悩み事を相談する」「新しく知り合った」人数を比較したが、日本が最小であった(濱岡、里村2009)

[1] 社会ネットワーク分析では孤立者isolateと呼ばれる。

[1] そうであれば、公開されたURLだけでなく、そのことも論文内に明記すべきではある。



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