2014年2月25日火曜日


放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ のとりまとめについて


上記に関して
環境省 桐生氏にメールしたもの(typoなど微修正) 2014/02/25 12:00頃送信。3/24時点では返答無し。
#その後 上記ページの 資料 から当日の報告資料pdfが公開された。ただし、動画についてはまだ。3/24 事務局を担当した原子力安全研究協会 に問い合わせたところ、時間がかかっている。動画については契約の関係で4月以降福島医科大で公開されるとのこと。




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環境省
桐生殿
はじめまして濱岡@慶應商学部です。
慶應義塾大学商学部 でマーケティング・リサーチを教えています。
http://news.fbc.keio.ac.jp/~hamaoka/

先日のWSの運営などご苦労様でした。

http://www.ourplanet-tv.org/files/20140223.pdf
 にある、
 "Co-Chairs ‘ Summary"について、貴殿がpress contactに名前を連ねておら
れるので、関係者に転送もしくは返答願います。


1)細かいが重要な点について
"Dose assessments revealed that their thyroid equivalent doses were
far less than 100 mSv (the level below which there have been no
significant statistical increases in thyroid cancer). (p.1 paragraph 2)"
という記述はShore氏のプレゼンテーションにもあったように、20mSvまで限定
するとERRは有意ではなくなる(逆に言うとそこまでは有意である)という知見に反します。また、このようにあたかも100mSvに閾値があるかと誤解されうる表現にも問題があります。
撤回すべきだと考えます。


"The latency period of thyroid cancer is considered to be four to five
years at the shortest, according to international observations. (P.2
paragraph 6)"

についても、

Imaizumi, M., T. Usa, T. Tominaga, M. Akahoshi, K. Ashizawa, S.
Ichimaru, E. Nakashima, R. Ishii, E. Ejima, A. Hida, M. Soda, R.
Maeda, S. Nagataki, and K. Eguchi (2005), "Long-term prognosis of
thyroid nodule cases compared with nodule-free controls in atomic bomb
survivors," J Clin Endocrinol Metab, 90 (9), 5009-14.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15941865

に被曝者の成人健康調査対象者について、t期において甲状腺異常がなかったに
も関わらず、2年もしくは2年後に甲状腺ガンが発症した方がみいだされていま
す(83才、58才)。
同論文 TABLE 4. Characteristics of thyroid cancer cases found during
follow-up period 参照

よって、この部分の記述も撤回すべきです。
これについては長瀧氏も著者の一人です。同氏はこの点について合意されてい
るのでしょうか。

p.2 最後
#The World Health Organization (WHO) noted in its health risk assessment report that the health statistics data from 2006 already indicated that thyroid cancers were increasing in Japan. In general, good cancer registries are essential for the constant monitoring of cancer incidence rates."
これを引用するならば、同報告書にある

" The high relative risk of childhood thyroid cancer becomes more evident when risks are calculated over the first 15 years after the accident for those exposed as infants, because the baseline thyroid cancer risk in early life is very low. Monitoring children’s health is therefore warranted. The risk of leukaemia as a result of radiation exposure from the accident was assessed to be greatest in males exposed as infants in geographical locations with the highest exposure, slightly above 5% over baseline risk as an upper bound. A similar result is found for breast cancer in girls exposed as infants. For all solid cancers, a maximum relative increase of about 4% was estimated."

も引用すべきでしょう。

2)全体に関して
出席もしくはUST視聴していましたが、全体の論調は 線量評価の不確実さ、日
本側の調査・分析体制のあやふやさ
 例 こころの調査の 原発被災地域と そうでないところ(宮城、岩手など)
の比較がされていない
 甲状腺volumeも測定されていない
 内部被曝の調査も1080人にしか行われておらず、その際のバックグラウンド
測定の際も衣服の上から行っているかいなかすら未だに判明しない
 そもそも1080人でやめるように指示した者がいるのかいないのかも不明
 環境省3県調査も0-3才を全く含まず 社会経済変数も測定していないので差違
の原因の有無を検定できない
 ついでに 通訳もされているはずなのに、低汚染地域で(WBCなどの)線量測
定・推定はされていないのか、という簡単で重要なJacob氏の質問にさえ回答で
きない日本の研究陣

 など、極めて重大な問題を感じました。

3)記者会見での発言
 これについては、summaryに文字化されていませんが、記者会見で山下氏は
「今後も増えるだろうとは予測していない」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1732
 と述べられたそうです。
 上記にある動画について見ましたが、質問、回答のあやふやさがあり、上記の
ように断言したのかしないのかわからないような感じです。

 Jacob氏のは長期的にはわずかであるという報告でした。
下記が元論文
http://link.springer.com/article/10.1007/s00411-013-0508-3
ご存じのとおり、
WHOのHealth  Risk assessmentでも上述のように増加の可能性が予測されています。
この段階でこのように断言することは、報告された研究の知見とも異なります。
 質問があったので回答されたわけですが、今回の研究会を尊重し、そこでの結
果を正確に紹介される方が誤解をまねかないと考えます。


4)他の影響について
 なお、私は挙手して 長瀧氏らの過去の論文に結節と市町村別の線量には有
意な相関があることが見いだされている。ガン以外にも注目すべきではないか。
と発言した者です。

ご参照

http://nonuke2011.blogspot.jp/2013/10/2.html
http://nonuke2011.blogspot.jp/2013/05/0.html

 述べたとおり因果関係ではなく、「相関」、また集計レベルでのエコロジカル分析です
が、この程度の分析は専門家が行っておくべきではないでしょうか。
 上記WHOも白血病などのリスクを評価しています。1日目最初に指摘があった
ように 甲状腺以外の影響も当然視野に入れるべきだと考えます。

5)最後のまとめ
 はこれらを考慮すると時期尚早です。下記のような内容にとどめるべきでしょう。

(1)これまでの知見のとりまとめ
・線量推定の不確実性
・チェルノブイリと福島の違いと類似性
  線量は異なる可能性が高いが、検査機器の性能があがり結節などの影響を早
期に捉えた可能性もある。
  一般的に女性の方が多い甲状腺ガンが福島では男性にも多くみられている(こ
の点は、福島健康管理委員会で清水氏も指摘され、要注意とのべておられました)。

(2)指摘された課題や今後の検討、分析内容
・研究、分析内容
 指摘された分析案とのその実施可能性についての検討
・実施体制、方法など
 日本における体制の不備
 データ分析、情報公開の不完全さ

(3)今後の具体的方向
・上記を踏まえた方向性を今後検討する。程度
・Tissue bankについて言及されていましたが、tissueだけでなくデータについ
ても、匿名性を担保し、被災者の便益を最重視した上での研究者へのデータ提
供、分析の実行にむけた体制づくりと協力のお願い。
 などのまとめが妥当な所だと考えます。

以上

濱岡豊
慶應義塾大学商学部